余白とピン留めー余録『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』
谷川嘉浩さんの『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマー新書、2024年4月10日初版発行)の素晴らしさについては別の記事に書きましたが、そこでは書ききれなかったことがありました。それは「細部にこそ重要な何かがある」という話です。
この本は「衝動」とは何かを考える本で、上記引用部分のインタビューとは、衝動を探究するための「セルフインタビュー」という手法について語った部分です。メインの読書感想では、衝動の「幽霊性」に着目したので、セルフインタビューについてはあまり書ききれなかった。
しかしここにあるように、その「書ききれなかった」部分に、心惹かれる記述があった。『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』という本の魅了は、もちろんメインの幽霊性にもある。だけど、それ以外に魅力がないかと言えば全く違くて、余白にこそ豊穣な意味が含まれている。
こぼれ落ちる部分を拾い上げて、考察すること。その断片をプリズムにして屈折した光は、ときに心を射抜くほどの鋭さを持つこと。
本の感想を記録することは、常に何かを「こぼれ落ちる部分」にする行為だと言えます。文章の流れから捨象するところは多い。読んでいる時は「ああ、いいな」と胸に刻まれても、いざ書いてみると稚拙な文章力では回収しきれない。
ではなぜ書くのか。それでも書く意味はあるのか、と言えば、感想記録はあくまで「ピン留め」であるといそうです。自らの表現力で、捉えられる魅力を固定する。その周辺には、あまりに豊かな本の魅力がある。記録できるものはほんの一点でしかない。
しかし、ピン一本あれば、紙=膨大な余白を壁に留めて置くことができる。忘却の大波から救い、記憶の棚に保存できる。不完全であっても。
だから書き続けたいと思います。「自分にはまとめきれない、数多の学びがある」ことを覚えて置くために。いつでも豊かな余白に立ち戻れるように。
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