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ネガティブが人を救うーミニ読書感想『つげ義春日記』(つげ義春さん)

◎つげ義春さん『つげ義春日記』(講談社文芸文庫、2020年3月10日初版発行)


著者のつげ義春さんはネガティブです。ネガティブな日記。でも、そのネガティブさに救われる思いになる。人生の暗さを照らしてくれるのは、ポジティブではなくネガティブではないか。


妻のマキさんががんを患ってからは、輪をかけて悲観的になる。でもその気持ちが、分かる。家族が病にかかると、世界全体が病的に感じられる。

午前中マキは飯野病院へ癌検査の組織標本をとりに行った。明日癌研へ提出するため。その足でマキは自転車を買って帰って来たが、ふと、マキが死んだら自転車は不用になるのではないかと不吉なことを考えた。

『つげ義春日記』p99

新しく買って、心躍るはずの自転車に、死の影を見る。そんなつげさんが、見いだす光もある。その明るさがちょうどいい。

マキは自分の癌が助かったのは石子さんのおかげだったと、しみじみ述懐した。自分の体に不審を抱いたとき、素早く病院で診て貰ったのは、石子さんの癌を見てその気になったのだという。(中略)そう考えてみると、石子さんの死は私たちにとってかけがえのないものになる。

『つげ義春日記』p140

「死がかけがえのないものになる」。悲しみや苦しみは、とはいえ完全に避けられず、避けるべきものでもない。いつか、あるいは誰かが、それを希望として受け取ってくれる日も来る。この日記のように。

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