私が生まれてきたのは、私自身の力だとすると
「お前のためならいつでも死んでやる」
こんなことを言われたら、どう思うんだろう。昔ある作家が、I LOVE YOUを同じように訳した話を聞いたことがある。
ともかく、主人公美帆は、同じクラスメイトだった優司に昔言われた言葉を忘れられずにいた。大人になって偶然再会してからは、二人はまた関わり合うようになる。
美帆の人生に優司は常には存在しない。クラスメイトだった高校2年生を最後に、次に再会したのは、35歳。高校2年生の美帆は“自殺決行日”に学校の違う優司にたまたま電車で出会う。35歳の美帆は、15年の付き合いになる丈二と、結婚するかどうかの岐路に立っていた時だった。そしてその後は美帆が妊娠を知った時。
彼女の人生のターニングポイントとなるときに、必ず優司がいたのには何かを感じずにはいられない。そして必ず、彼は美帆に力強い言葉を残した。
「人間の生き死には一つ事て。やけん大事なんは、そこに生きるべき義、死すべき義があるかどうかたい」
「ちゃんと生きれんやつは、ちゃんとも死ねん。生き死には一つやろ」
美帆は生まれながらに様々な“死”と近かった。大好きな猫スプーンが、ベランダから母親に投げられたこと。お母さんの自殺。高校時代の校内での飛び降り自殺。
その分生きること、死ぬことを人よりも深く考えずにはいられなかった美帆。そして優司の言葉はそんな美帆にその時その時に必要な言葉を差し出す。時には驚くべき見方まで。私が好きだったのは、子供を産む、産まないの話をしているときの、優司の話だ。
「お前が産むんやない。その腹の子がお前を選んで生まれてくるんや。」
「俺の親は、俺を産んだ途端に、俺の方からクビにしたんやと思うとる」
俺たちみたいな人間はそうでも思わないと生きていけないと優司は言う。
これはすごいものの見方だなと思う。私たちはみんな生まれてくることも、親も、国も、環境も全部選べないと思っている。だからそれが当たり前の権利のように、自分の生まれや育ちに文句を言う。“親ガチャ”なんて言葉も、そこからきている。
だけど親に恵まれず、たくさんの苦労をした優司は、だからこそこう考える必要があると言う。
自分の意志で自分の力だけでこの世界に生まれてきた。
美帆はそうやって、15年にも及ぶ長年の付き合いの丈二とも“自分がクビにした”と言って関係を終わらせる。
「肝心な勝負事っていうのは流れが一番大切なんだ。うまくいくときは全部うまくいくし、いかない時は必ずどこかに小さなほころびがある」
大きな川が上流から下流に向かい、分かれては繋がって、やがて一つの川に戻って海へとのびるように、美帆と優司は必要な時に繋がって、分かれて、また繋がってを繰り返す。
それは決められた約束のように。“自分の意志で生まれた”私たちにとって、それはよく効く人生のスパイスみたいだった。
Written by あかり
アラサー女
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