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あなただったら、I Love Youをどう訳す?
「何か証拠があるはずなんだよ」
「ベストの相手が見つかった時は、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
この作品では随所にそうした「ベストの相手」の存在が語られる。そして私達は「みんな徹底的に探していない」とも。
そんなもの本当にあるの?あるんだったら包み隠さず教えてほしい。
というのが、この作品を手に取った時の私の気持ちだった。というか、そんな確証がないから、私達合コンに行ってはがっかりして、付き合えたと思ったらやっぱり違う、なんてこと繰り返してるんじゃないのかな。
そんなことを思いながら読み進めていくうちに、しかし確かに面白い“ベスト”を探す手掛かりがいくつか出てくる。
特に私が惹きつけられたのは匂いだった。
匂い
主人公明生は東海さんに初めて会ったときから何とも言えない「いい匂い」がしたと言う。とても気持ちが和らいで、その匂いが無性に恋しくなることがある、と。
確かに匂いと恋愛の結びつきって考えてみれば強いものがあるなあ、と思った。ガールズトークの中で、いや彼氏の匂いが本当に好きでさ、なんて聞いたことはないけど。皆さんそれぞれ自身の恋愛を振り返って、少しは思うところがあるんじゃないでしょうか。
私も一人思い出す人がいた。もうずっと前の人で、顔もしっかりとは思い出せないけれど、でも私はその人の匂いがとっても好きだった。もうその匂い自体を思い出すこともできないけれど、とにかくその匂いが好きで、その匂いの近くにいると何故だか安心したことは、今でも覚えている。
安心
こんな陳腐な言葉で語りたくはないけれど、しかし私たちは常にそれを求めている気がする。
私達は食った食われたを繰り返す、弱肉強食の世界で生きるアフリカのライオンじゃない。銃弾が飛び交う戦争で生きているわけでもない。
だけど常に何かに“脅かされている”。時には自分自身に。
主人公明生は、名家出身の筋金入りの御曹司にも関わらず、出来の良い兄たちに比べて「生まれそこなった」自分自身に。
もう一人の主人公みはるは、「自分はまっとうに生きられない」と言う黒木の、ときに廃人じみた考えに、実は心の深い部分で同意してしまえる自分自身に。そして心の奥底で疑問を投げかけられる。
どうして自分は自分なんだ?
自分自身を疑っては否定し、時には裏切られて。
そんな中たどり着いた安心な場所が、他人の中にあったのなら。
人生において、恋愛や結婚を超えて、“ベスト”を探す営みの、その果てしなさについて深く考えさせられる本です。そしてその価値については、他の誰でもない自分自身と、死ぬまで語り合う必要があると。
Written by あかり
アラサー女