「約束」について──『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』評
『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』には約束・規則という表現が頻出する。例えば、ちさと・まひろの間で交わされる賭事をしないという約束や、マネージャーの須佐野が殺し屋協会の規則を確認するシーンなどだ。
悪魔との契約を貧困問題に接続させた『チェンソーマン』と同様、『ベビわる2』でも約束・規則という「決まり」は貧困問題というテーマに結び付く。主人公のちさと・まひろは規則を破った事により謹慎処分を食らい貧しい生活を強いられる。
映画中盤、『花束みたいな恋をした』を鑑賞した主人公らが菅田将暉演じる麦の「じゃあ結婚しよう!😡」という台詞を茶化すシーンがある。前提知識として『花恋』は『ベビわる』(1作目)と同じ2021年公開で、共同生活を描いているという点でも共通している。これを踏まえると『花恋』の共同生活が成立せず、『ベビわる』のが継続している要因は結婚=契約、つまり「決まり」のつまらなさに自覚的だったからだと言えるのではないか。
そして終盤には約束・規則は立て続けに破られる。規則にうるさかった須佐野や清掃員の田坂はその穴を見つけ主人公らに協力する。また、ちさとの賭事をしないという約束も、まひろの「私に賭けろ、杉本ちさと。」という台詞で撤回される。
細かい演出にも触れると『ベビわる』は『リコリス・リコイル』の参照元であり、そこからの逆輸入的演出が予告で既に明かされていた。
しかし、予告通り軽く蹴る所までは同じだったが、蹴り返す所はフェイントでスカし、「お約束」を裏切ったという訳だ(無理があるか?)。
ここまで『ベビわる2』における約束・規則を破るという逆向きの倫理観について記してきたが、これによって先述の貧困問題が何か解決するわけではない。実際、主人公らと対立する非正規雇用の殺し屋兄弟は激闘の末、殺される。上映中笑いに包まれてた会場もラストシーンで急に静まりかえった。しかし、約束を破る倫理の「アツさ」も確かに存在して、言語化できないが私はそれにグッときたので良しとする。
最後に『ベビわる2』と同日に公開された『グリッドマン ユニバース』と軽く比較して終わる。『グリッドマン』は日常を守るという物語だが、裏テーマとして主人公響裕太の告白が成功するかどうかという物がある。勿論、成功して裕太君と六花ちゃんは付き合うのだが、ベビわるでも裏主人公である非正規殺し屋まことが食堂の店員をデートに誘えるかというのが物語と並走する。勿論、誘えない。死ぬので。