人類は絶滅しないのか?
夜の灯りクリニックのヨルです。
今回は前回の続きです。
まだご覧になっていない方は是非こちらもご覧下さい。「人類は絶滅するのか?」というタイトルでAIによる人類絶滅リスクをご紹介しました。
AIの台頭を受けて人類絶滅リスクは高まっているようです。人類は絶滅してしまうのでしょうか。
ところで、私は「人類は絶滅するのか」というタイトルで記事を書き始めましたが、正直に言うと、科学者としてはあまりスマートではない表現でした。科学者らしくない煽り文句を使ってみたかったのです、ごめんなさい。
というのも、人類が絶滅することは、残念ながら科学的には明らかだからです。常識的に考えれば、人類は絶滅します。その理由はこれからお話します。しかし、人類が絶滅することがサイエンスの共通認識である以上、私は科学者として、一縷の望みをかけてむしろこういう問いをしたいと思います。
人類は絶滅しないのか。
この先、人類が絶滅しない未来はありえるでしょうか。AIによる絶滅リスクがなかったとしても、人類は既にさまざまな絶滅リスクを抱えています。
本題に入る前に、まずは「人類の絶滅」という言葉を定義してみましょう。
「絶滅」とは、一つの生物種の全ての個体が死ぬことによってその種が絶えること、を言います。
一方、「人類」という言葉は、定義の仕方によって意味が変わります。今回は、一つの生物種の消滅を考える文脈ですので、生物種単位のホモ・サピエンスを意味するということにします。
つまり、この記事では「人類の絶滅」という言葉を「ホモ・サピエンスの全ての個体が死ぬこと」と定義します。
それでは、どうしたら人類が絶滅しないルートに辿り着くのでしょうか。
絶滅ということを想像した時、私たちは6600万年前に隕石がユカタン半島に落ちたことによって恐竜を含む75%の生物種が大量絶滅した歴史を思い出すかもしれません。
チクシュルーブ衝突体という名の隕石が地球に衝突したことは、地球の歴史でビッグファイブと呼ばれる大量絶滅の一つになりました。
しかし、原子爆弾の10億倍のエネルギーをもつとされる隕石の衝突でさえ、一日のうちに地球上の全ての恐竜を根絶やしにしたわけではありません。
大災害を生き延びて絶滅しない生物種は、隕石衝突後の過酷な地球環境で生態学的ニッチと呼ばれる適応環境を探し出し繁殖行動を開始します。
恐竜のうち、非鳥類型恐竜は絶滅しましたが、鳥類型恐竜の一部は大量絶滅を生き延びました。現在、遥か上空から人類を見下ろす鳥類たちはそうして生き延びた恐竜の一族です。
私たちは恐竜は絶滅したと教えられてきたかもしれませんが、それは誤った教育です。地上で最も繁栄している脊椎動物は現代でも恐竜です。このことについては、ご興味があれば別の機会でお話したいと思います。
説明が長くなってしまいましたが、「ある生物種が絶滅する」ということは、大災害によって理由なく発生しうる理不尽な現象ですが、「ある生物種が絶滅しない」ということは、奇跡的に環境に適応した稀有な生物種だけが経験する合理的な現象だということです。
過酷な環境で繁殖行動を続けることができる生物は、合理的な生物学的機能を備えている必要があります。
私たち、ホモ・サピエンスはどうでしょうか。
悲しい説明から始めなくてはなりませんが、ホモ・サピエンスは未曾有の大災害によって既に絶滅の危機に瀕しています。繁殖行動ができなくなっているためです。
2022年の日本の合計特殊出生率は1.26で過去最低になりました。OECD加盟国で最下位の韓国は0.78です。ホモ・サピエンスの個体数を維持するためには、合計特殊出生率は2.07以上であることが必要です。
私たちは自分たちの権利として選択的に少子化の道を歩んでいるように感じているかもしれませんが、客観的にデータを見る限り、少子化は自由選択の結果ではありません。人種や国籍、宗教を問わず、一人あたりのGDPが一定の閾値を超えて上昇すると人類の出生率は急激に低下します。高度な文明社会で生活していると人類の繁殖能力は著しく低下するのです。
先進諸国が国を挙げて少子化対策を行っても出生率2.07以上を長期的に維持することはできていません。ホモ・サピエンスを地球最強の生物種に押し上げた宗教をもってさえ少子化を止めることができないのですから、どれほど大きなインパクトが押し寄せているかが分かります。
今から何万年〜何百万年か前に、地球に文明という名の巨大な隕石が衝突しました。
産業革命以後の文明化は、ユカタン半島に隕石が衝突した後、時間差を置いて地球全体に酸性雨が降り注ぎ出した状況に似ています。ホモ・サピエンスは高度な文明社会という生態学的ニッチに適応できていないのです。
とはいえ、私たちはこのような理論に対して反論することが可能です。ホモ・サピエンスには環境を変化させる力があります。いずれ物理的・精神的に環境を操作して繁殖行動を再開するかもしれません。
ただその時、操作をするプレイヤーはホモ・サピエンスではなくAIかもしれません。ホモ・サピエンスが絶滅するかしないかの決定権がAIに委ねられているとしたら、これから私たちがするべきことは何でしょうか。
次回も人類が絶滅しない未来について考えてみたいと思います。
次回予告「人類のこれから」