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都美子と梨花

目に映る景色は、百億の名画にも勝るぜ。都美子はワンカップ片手にもう出来上がっています。梅雨に差し掛かるきらきら町の河川敷は、思うままの光をみせて、ほんとうに美しかったのです。


「なあ、魔法少女ちゃんもそう思うでしょ!? どんより雲も銀幕だと思えば美しいなあ!」


「やめてください、酔っ払い。私、こんなことに付き合ってる場合じゃないんですけど」


「ええ!? いいじゃんいいじゃん、世にも珍しい現代の巫女からのオサソイだよ?」


都美子は魔法少女梨花にウザがらみをしていました。梨花がパトロールしているところに、助けを求めるフリをして、舞い降りてきたところを捕まえたのです。


都美子は気が付いていました。彼女の眼の奥に隠された悲しみのことを、そして知っていました、きらきら町は彼女の犠牲の上に成り立っているのだと。たいていの人は彼女の存在にすら気づいていません。せいぜいアニメのキャラクターだと思っている程度です。都美子は現生の巫女でしたから、しっかりと彼女を知覚していました。


「ねえねえ、魔法少女ちゃん、人を救うってどんな気もち? 埋まらない穴を埋めている、寂しい工員のような気持ちなのかな? 都美子ちゃん酒に脳やられてて馬鹿だから判んないけどさ、自分を愛さないと他人を愛することってできないのかな?」


「都美子さん、失礼ですよ。あと私中学生なので、ワンカップを頬に押し付けるのやめてください。マジで」


「えー、いけずぅ。つれないなあ、ねえ、都美子ちゃん思うんだけどさあ、というか感じてるんだけどさあ、桜が散るときにね、風が悦んでるの、するとね、私も悦ぶの、お互いが悦んでるのね、時に性的な快さで。


 助けるって、何だろうね、お互いが生きてるってことが、お互いを癒しているってことかな。私ね、魔法少女ちゃんと同じくらいの年にね、高校受験頑張りすぎて精神病になっちゃったんだ」


「中学生に性的な快さとか言わないでください。私、逮捕権限持ってるんですよ、一応」


「そっか、でももうちょっと話したいな。イイところでしょ、お話も」


「……有益な話じゃなかったらぶっ飛ばします」


「おお怖、それでね、いろいろあって巫女になったりしてたんだけど、その過程で、「治る」じゃなくてね「癒され」ていったんだ。同性、異性と交わったり、お話したり、万物と交わったり、お話したりしていくうちにね。そうするとね、これは不思議なことなんだけど、周りの人たちも私に頼ってくれるようになったの。それは私が元気になったから頼った、ってわけじゃなくて、私が頼った人たちや自然物が、逆に悩みとか聞かせてくれるようになっただけなんだけどさ……


 あーーー! 自分のこと全然好きじゃない! いろいろ不健全だし、社会不適合者だし! でもね、欠陥だらけの人間が、それでも人間を癒すことはできるはずなんだよ、ごめん、梨花ちゃんの今を否定するわけじゃないんだけど、あー……なにが言いたいんだろう、私は……、けどね」


「もう時間です。簡潔に言ってください」


「梨花ちゃん、私と友達になって、私あなたと友達になりたいの」


「25歳と中学生が友達はおかしいと思います。」


「そっか、そうだよね」


「でも、また用事があったら助けを呼んでください、それが仕事なので」


「梨花ちゃん……!」


「勘違いしないでくださいね」


そう言って梨花は飛び立っていきます。魔法のジュエルは鈍い光を反射します。都美子は「はぁーあ」と肩を下ろします。巫女にできることなんて、魔法少女と友達になることくらいだと彼女は思っています。そして、救われたいのは私の方であると、都美子は自覚して自分を殴りたくなります。


「目に映る景色は、百億の名画にも勝るぜ……か」


きらきら町は、平成の大合併の際にできた町です。当時の市長が、せめて見栄えのよい名前にしようと、無理くりつけた名前を持っています。巫女も、魔法少女も、ヒーローも、敵役も、全員が苦しむ町です。いつか希望というものが現れるとき、それは決して魔法少女の姿をしていないだろうと、都美子は予言します。真に美しいものは、平凡な姿をしているのだと、都美子は知っています。


都美子はコンビニに追加の酒とつまみを買いに行きます。都美子は鮭とばが好きです。最近値上がりしたので多少怒っています。


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