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Photo by
sumisumi1102
【詩】ダンス
もうお互いがわかっている
わたしたちはよき大人だから
明るくないけど暗くもない小さな部屋
向かい合った部屋の中で
溶けたチーズがぐつぐつと煮える
ゆずりあい
どうぞお先に
冷たかったのか熱かったのか
ぬるかったのかちょうどよいのか
部屋を出たらもう真夜中
止まり木で鳥たちが
羽を休めるようにひとやすみ
その行くべき場所を知っている
わざと暗い小部屋の中で
あの人の好きな曲を知る
少し近い距離で
あの人の声を聞く
ねむくなるような声で揺さぶったのはなにか
耳に触れて指先に触れ
息を吸って息を吐く
光の中を二人は歩く
ひっそりしっかり
歩いてきた道は振り返らない
選択肢は他にないから
だってなんでこんなところで
最初からわかっている
二人が望んだ事だから
あたまの中はもうたくさん
そんな顔をしないで
わたしももうおんなしだから
髪の毛がふわふわとわたしの肩越しに揺れている
巻きつけて吹きつけてぐしゃりと潰す
ゆれてゆられてきらきらと反射した
丸い指先と柔らかい髪
密度のある皮膚がなでてざわめく
肩に触れてダンスを踊る
恥ずかしそうにあの人は笑う
満ち足りた顔でわたしは笑う
ダンスを踊る
ちゃんと支えて落ちないように
腰に手を
肩に手を
ワルツを踊ろう
ルンバもお願い
時計は壊してみれないように
カーテンは閉じたまま
少しくらい息苦しくても構わない
踊る踊るダンスを踊る
よき大人たちの
ダンスを踊る
大丈夫もうわたしたちはわかっている
わかっていてダンスを踊る
夜更けのダンスがおわったら
つぎは真昼のダンスを踊ろう
しめつけながら
その指先で
ここがどこかも知っている
知っててふたりはここにいる
ふたりのいきさき
ふたりのゆくさき
あの人とわたしのおわり
わたしたちだけが知っている