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虫の好かない女

 夜中、トイレに行こうと灯りを点けたとき、天井を蜘蛛が這っているのが見えた。よくいる蜘蛛と違って(私は夏でも冬でも窓を開け放つ癖があるので虫たちも出たり入ったり自由にやっている)、少し大きめで、体は白かった。
 もちろん「国の検疫の網をくぐり抜け、あらぬ猛毒種がとつぜん私の部屋に現れる」なんてことはまず無いと知りつつも、見慣れない生物がいると、やはりちょっぴり不安に思ってしまうものである。それで寝ぼけ眼でスマホを探り調べてみたのだけれど、結局どういう蜘蛛かはわからなかった。(ただいくつか《白い蜘蛛がいたら幸運のしるし》とかいう別ジャンルの見出しを目にしただけである)
 いつもなら捕まえて外に逃がしてやったりするのだけれど、なんとなく近寄りがたく、そのまま放っておいた。目が覚めた時には案の定、いなくなっていた。

 そういえば昨日も、100円ショップで来年のカレンダーをぱらぱらと眺めていたとき、紙の間から大きな蜘蛛がワサワサッと駆け出してきて、「ハロー!」と言わんばかりに私の手に乗っかったのだった。ーー虫の好かない女であるが、虫には好かれるのである。
 先日も、野山を散歩中にトンボが胸元にとまって、払っても払ってもどうしても離れてくれないのであきらめてしまった。もはや素敵なブローチと思うしかない。

 この時期は急に気温が下がるので、虫たちは暖かい室内に入りたがる。あのトンボも、私の体温が気に入ったのではなかったか。

 完全に冬になると、毎年一匹は蜘蛛が私の部屋に住み着く。雪のなかに追い出すのもしのびなく、もう好きにさせておくのだ。なかなかかわいいものだ。
「クモ助は今日はどこで過ごすの、そこにいるの?」なんて話し掛けているうちに、向こうでもだんだん人間に慣れてきて、私の前に糸をツーと垂らして降りてきたりする。ふぅと息を吹きかけてやると、楽しそうにぶらぶら揺れたり、ものすごい勢いで糸を手繰ってみせたり、私がその糸を掴んで操り人形のようにクモ助を自由に踊らせることも出来る。
(なんとまぁ、私の能力の非凡で、そしてなんの役にも立たないこと!)

 しかし春を待たずに、その糸はプツンと切れる。クモ助は空中で力尽き「カチン」と小石のような音を立てて床に落下する。臨終だ。蜘蛛というのは冬を越せない生き物なのだろうか。それとも室内では餌がとれないために飢え死にしてしまうということか。わからない。

 カメムシは越冬するようだ。洗濯物にくっついてうまく室内に入り込み、たいがいは私のズボンのポケットの中でぬくぬくと正月を迎えるのである。あれはまったくかわいくない。春にそのズボンを履いて、お尻のポケットで何かがギチギチとうごめくのを感じたときのあの不気味さといったらーー。
 ちなみに、秋にカメムシがたくさんいると、その年の冬は大雪が降ると言う。だいたい当たっているように思う。今年はまだカメムシを見ていないが、どうなることやら。

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