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【関西オーケストラ演奏会事情〜20世紀末から21世紀初頭まで】 第0回その3 《アマチュア音楽の魅力〜芦屋交響楽団&文化行政に注文〜びわ湖ホールと大阪センチュリー交響楽団(2回分を同時掲載)》

【関西オーケストラ演奏会事情〜20世紀末から21世紀初頭まで】
第0回その3
《アマチュア音楽の魅力〜芦屋交響楽団&文化行政に注文〜びわ湖ホールと大阪センチュリー交響楽団(2回分を同時掲載)》


※写真は土居豊の撮影

芦屋川の風景




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(1) アマチュア音楽の魅力〜芦屋交響楽団


 故・芥川也寸志が育成に尽力したアマチュアのオーケストラは、日本の各地にあります。その一つが、芦屋交響楽団です。1967年設立、77年から芥川をトレーナーに迎えて、楽団の基礎を固めました。
 このオーケストラは、年間数回の定期演奏会を中心に、充実した演奏活動を行っています。2006年には、ベトナム国立交響楽団との、現地での合同演奏旅行を敢行し、国際親善にも一役買いました。
 「アマチュア音楽は音楽の本道である」という芥川の理想は、今も、芦屋の地に受け継がれています。
 大正期以来、関西財閥の別荘地として、お屋敷町のイメージが強い芦屋ですが、そういう財界人が、率先して文化芸術を保護、育成したことも、忘れてはなりません。文豪谷崎が住んだ地でもある芦屋には、音楽における芥川の足跡のほか、美術でも具体派の拠点がありました。
 現在の芦屋交響楽団のメンバーの職業欄をみると、そうそうたる企業の名前が並んでいますが、医師の方もいらっしゃるようです。オーケストラの財政面での支援にとどまらず、音楽活動を自ら率先してやろうという姿勢は、芦屋市民の文化芸術への高い意識を物語っていると思います。
 そういうオーケストラを、定期的に指揮する1人、山下一史さんは、こう語ります。
「音楽に、プロもアマチュアもない。アマチュアのオーケストラだからといって、指揮の手を抜いたりはしない。むしろ、アマチュアの方が、つぼにはまるとすごい演奏をすることもある」
 たまたま、芦屋交響楽団のコンサートのあと、指揮者の楽屋を訪ねたのですが、オーケストラのメンバーとの打ち上げに、上機嫌で出向く後ろ姿が、とても幸福そうでした。楽屋でも、オーケストラのメンバーが入れ替わりたちかわり入ってきて、その日の感動を語っていたり、と、本当に満足のいく演奏だったことがうかがえる雰囲気でした。

※演奏会データ
第66回芦屋交響楽団定期演奏会
2006年10月8日(日)
指揮:山下 一史
場所:ザ・シンフォニーホール
曲目:
J.ブラームス/悲劇的序曲 作品81
F.メンデルスゾーン/交響曲第5番 ニ短調 ”宗教改革” 作品107
B.バルトーク/管弦楽のための協奏曲



芦屋川の桜と、ルナホール



(2)文化行政に注文〜びわ湖ホールと大阪センチュリー交響楽団



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びわ湖ホールのホワイエから、琵琶湖が見渡せる



 7月に、びわ湖ホールで行われたオペラ公演、びわ湖の夏/オペラ・ビエンナーレでは、昨今、関西音楽界を揺るがしている問題が垣間見えていました。
 一つは、びわ湖ホールに対する滋賀県の補助金カット問題です。
 また、もう一つは、この公演でオケピットに入っていた大阪センチュリー交響楽団の解散問題です。
 びわ湖ホールも、センチュリー交響楽団も、地方公共団体が母体となっている音楽施設であり、団体です。その活動は、公金の補助抜きには成り立ちません。
 ところが、国自体の経済の悪化と、地方の財政事情の悪化のあおりを受けて、真っ先に資金を減らされたり、解散を迫られたりするのは、文化芸術団体です。
 その活動状況が、明らかに芳しくなくて、存在意義を疑われるものなら、それもやむを得ないかもしれません。ところが、びわ湖ホールも、センチュリーも、音楽活動の質の高さと人気の両面で、明らかに高い評価を得ています。びわ湖ホールに至っては、関西のオペラ公演の殿堂といってもいい施設であり、団体です。
 いとも簡単に、文化芸術を切り捨てようとする政治や企業活動のあり方には、大いに疑問を抱きます。
 この公演の演出家、岩田達宗さんは、気鋭の演出家で、斬新な舞台作りに定評があります。
 岩田さんがいうには、
「音楽公演は、とにかくお客さんに足を運んでもらって、ホールに来てもらわないと、話になりません。いくらCDや、ネット上での音楽が進化しても、実際に音楽が演奏されている現場がなくなれば、音楽は成り立ちません。とにかく、劇場に来てほしい。そのために、舞台関係者は、時には太鼓持ちのような真似までせざるをえません」
 その言葉には、音楽に賭ける熱い情熱が迸り出ていました。と同時に、まさに存続の危機にひんしているホールやオーケストラのために、「太鼓持ち」のような真似を強いられたことへの、憤りも感じられたのです。
 その公演「フィガロの結婚」は、政治的な作品背景を抑えて、男女の愛の諸相を丁寧に描き出す演出であり、すばらしい歌手と、それを支えるオーケストラの魅力があふれた舞台でした。充実した音楽公演も、聴き手の側の文化芸術に対する理解や共感が失われれば、すぐに枯れてしまいます。成熟した社会を創るか、薄っぺらい商業主義に毒された社会にしてしまうか。我々一人ひとりの選択にかかっているのです。



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びわ湖ホールから見た琵琶湖岸


※前段記事

(改訂2024年9月) 【関西オーケストラ演奏会事情〜20世紀末から21世紀初頭まで】第0回その1 《特集「モーツアルト生誕250年 モーツアルトのオペラ その制作現場」(文芸同人誌「関西文学」より転載)》
https://note.com/doiyutaka/n/n28a3c5113837


【関西オーケストラ演奏会事情〜20世紀末から21世紀初頭まで】第0回 その2《忘れられた作曲家・大澤壽人〜モダニストの限界(文芸同人誌「関西文学」より転載)》
https://note.com/doiyutaka/n/nc631c538599d


※まとめ読みはこちら

マガジン
関西オーケストラ演奏会事情




本編記事へのリンク

第1回
〈朝比奈隆と大阪フィルの実演〜朝比奈隆指揮・大阪フィル「マーラー 交響曲第9番」1983年定期演奏会〉


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国内オケの演奏会評、関西を中心とした演奏会事情などをまとめた。 21世紀前半の今、日本での、それも関西という地方都市を中心としたクラシック…

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