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「これからのデザイナーのあり方」~個性を磨き、時代の流れに乗る~

「MdNデザイナーズファイル2022」連動企画、クリエイターインタビュー第二弾として、アートディレクターのDODO DESIGN 堂々穣が受けたインタビュー記事になっています。驚きとユーモアに満ちたDODO DESIGNのクリエイティブには、どのような想いが込められているのか? デザイナー歴22年、会社設立から10年目を迎える堂々が「時代を超えて求められるデザイナーの役割」と「これからのデザイナーのあり方」について語らせていただきました。

広告の手法でデザインした「ヘルス・グラフィックマガジン」

―― DODO DESIGNはどのような会社ですか?

堂々:2012年に設立したデザイン会社です。広告代理店でもなければ、制作プロダクションでもない、「独立型のデザイン会社」として立ち上げて今年で10年目になりました。現在は16名の個性溢れるデザイナーが所属しており、日本一のデザイナー集団を目指してみんなで毎日奮闘中です。

―― “DODO DESIGNらしさ”が伝わるデザインを見せていただきたいです。

堂々:アイセイ薬局さんの医療系フリーペーパー「ヘルス・グラフィックマガジン」をご紹介します。毎号ひとつの症状にフォーカスして、医師や各分野の専門家が症状や改善方法をさまざまな角度か​​ら解説する季刊誌なのですが、名前の通り「健康情報をグラフィックで見せて人々の役に立つ」ことにこだわっています。そして、「100人居たら、100人が興味を持って読みたくなるような、面白くて、ちょっと笑える誌面デザイン」を目指しています。

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―― パッと目を引いて、思わず手に取りたくなる表紙ですね。

堂々:そうですね。表紙は広告でもあるので、目立たなければ意味がないと思っています。中身の医療情報はきちんとしているので、その素晴らしい情報を「いかにたのしく正確に届けるか」がデザイナーの仕事だなと。誌面は、エディトリアルデザインではなく広告デザインの手法を採用していて、一つひとつの誌面に電車の中吊り広告をつくるような気持ちで取り組んでいます。

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「知ってるつもり」を見直す「熱中症クイズ」。
40代のコアな読者層を意識して、往年の名クイズ番組風に

堂々:起業して1年目の頃に、アイセイ薬局さんから競合で声を掛けていただいて、そこから長いお付き合いが続いています。担当者の方が、「MdNデザイナーズファイル」に掲載されていた僕の作品を見て、連絡をくださったんですよ。

―― なぜ、コンペでこのようなデザインの提案を?

堂々:僕は、「デザインはコミュニケーションの入口をつくることだ」と考えているんです。薬局に置かれている健康情報誌を「読んでみたい」と思ってもらうためには、フックが必要ですよね。世の中の多くのエディトリアルデザインは「読みやすい」けれど、「読みたくなる」デザインではないので、DODO DESIGNが冊子をつくるなら広告の手法を取り入れたいと思いました。「驚き」をフックにして興味を持ってもらい、気になってつい読んでみたくなるような企画にできたらいいなと。

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昨今のアニメ擬人化ブームもあり、ネット上で話題になった
「食中毒菌・ドクメン8」

堂々:デザインの世界って、どうしてもニッチになりがちというか、「分かる人にだけ分かればいい」というクールな雰囲気があるじゃないですか。業界誌には取り上げられるけど、日常生活ではなかなか気に留めてもらえない。そういう意味で「ヘルス・グラフィックマガジン」は、カッコつけていないぶんデザインの敷居も低くなって、老若男女どんな人にも好きになってもらえたなという手応えがあります。

―― 「ヘルス・グラフィックマガジン」のデザインのポイントを教えてください。

堂々:「既視感」を大切にしています。パロディだったり、「何か見たことあるな」という突っ込みどころを増やすような。前衛的なモノや、突飛なモノは格好いいけれど一般化はしないので、J-POPのように親しみやすい大衆デザインを意識しています。

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運動習慣を身につけてもらうために、
体操番組のような親近感のわくビジュアルにした「足楽ストレッチ体操」

堂々:僕らの仕事は、クライアントの「認知してもらいたい」「売りたい」「集客したい」という漠然とした課題を、デザインの力で解決すること。そして、抽象的な事柄を具体的にアウトプットすること。これは、僕がデザイナーになった22年前から変わらずに求められる普遍的なスキルだと思います。ただアウトプットの領域は広がりました。デジタル、建築、映像、メタバースと格段に広がっています。本当に毎日ワクワクしますね。

DODO DESIGNは、若手の個性を活かす「デザイン道場」

―― 「ヘルス・グラフィックマガジン」をはじめ、人を惹きつけるクリエイティブが印象的ですが、DODO DESIGNのカルチャーはどのように醸成されているのでしょうか?

堂々:20代〜30代前半のデザイナーが在籍しているのですが、一緒に働きながら「DODO DESIGNらしさ」を感じ取ってもらって、カルチャーを育てています。

デザインは常に新しくなるので、若い力にはすごく助けられていますし、僕自身も「先輩方から学んだ技術や、これまで培ってきたことを次世代に継承したい」という思いがあるので。営利団体だけどデザイン道場のような感じで、毎日切磋琢磨してお互いを高め合っています。

日本のデザインは、世界的に見ても素晴らしい技術だと思うので、「デザインが分かる人」を増やせたらいいなと。

―― 社員のみなさまの特徴はありますか?

堂々:16人がそれぞれの得意分野を活かして、個性を売っています。イラストレーターとデザイナーを兼務している人も居れば、タイポグラフィを探究している人、ロゴデザインが上手い人、面白い企画を提案できる人、斬新なレイアウトをつくれる人など、その人らしさが光っています。クライアントにも、各デザイナーの個性を気に入ってもらっているんですよ。

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―― 若手デザイナーの個性を引き出す方法は?

堂々:仕事を通して、その人の考え方や好きなものをよく観察しています。みんなで飲みに行くような習慣がほぼないので(笑)、クライアントとの打ち合わせに向かう道中などで雑談しながら、注意深く耳を傾ける努力をしています。

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DODO DESIGNのオフィス風景

堂々:そして、あえて「無茶振り」をしています。「この人の技量だといまは難しいかも」とか「好きな世界観じゃないかも」と理解した上で真逆の仕事をお願いすると、意外な才能や新たな個性を発見できるんですよ。最初は「イラストなんて描いたことないし、見せられないです」と言っていた人が、すごくいいアウトプットをしてくれるとか。

あとは「好き勝手にやってもらう」ことも大切ですね。業務過多にならないように、「いま誰が何の作業をしていて、どれくらい忙しいのか」という情報は全社員に共有していますが、特に問題がなければ2〜3日連絡を取らないこともあります(笑)。

―― 全員の個性や力を信頼されているのですね。

堂々:僕の指示を待っているだけでは成長できないので、「DODO DESIGN」では入社時から一人ひとりに「アートディレクターマインド」を持ってもらうようにしています。社内に営業職やプロデューサー職が居ないので、デザイナーが進行管理もするし、金額交渉もするし、撮影の手配やメディアリレーションの構築もする。初めから終わりまで、全ての業務に取り組むのは大変ですが、必ず自分のためになるし面白いですよ。

時代の変革スピードに乗る。これからのデザイナーのあり方

―― アートディレクターマインドを持つことが大事なんですね。その他に、これからのデザイナーに求められる役割や、必須スキルはありますか?

堂々:YouTubeは必須ですね。発信力がないと埋もれてしまうと思います。それから「オールメディアに落とし込める力」も必須だと感じています。昔は特定の媒体の広告だけをデザインするような案件もありましたが、いまは「トータルでデザインをお願いしたい」というクライアントが多いので。コンセプトづくりをはじめ、キービジュアルやロゴデザイン、Webサイトやアプリ制作、動画編集や店舗デザインなど、あらゆる媒体に対応できるスキルと柔軟性が必要なんじゃないでしょうか。

誰にも負けないオリジナリティがますます大切になると思うので、みなさんには自分の個性を信じて磨いて欲しいです。

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1つの仕事が店舗や冊子など、多面的にアウトプットされた「のもの」

堂々:使用アプリケーションも、これまではIllustratorやPhotoshopが主流でしたが、これから少しずつ変わってくると思います。最近、新卒で面接に来る学生たちからは、すでにそうした新しい流れを感じています。Instagramなどの個人メディアで自分の世界観を発信してもいいし、YouTubeでデザインの制作過程を公開するのも面白いですよね。

先人の知恵に頼りつつ、過去のしきたりにこだわらない。時代の変革スピードに自分をマッチさせながら、腕を磨ける人がどの職種においても強いです。せっかくなら、このスピード感をたのしめるデザイナーになるべきです。

―― いまの時代だからこそ、デザイナーが取り組めることは?

堂々:個人的には、オンライン上に構築された3DCGの仮想空間・メタバースに注目しています。ユーザー同士での交流や、モノの売り買いをたのしめることもあって、仮想空間上の土地を購入する企業も増えています。それこそ、一級建築士の資格を持っていなくても建物のデザインに携われるので、可能性の幅が広がりますよね。情報感度を高めながら、どの業態にも溶け込めるデザインというスキルを上手く使っていってほしいです。

その一方で、やはり基礎を磨いておくのは大事だと思います。特にタイポグラフィにはこだわってほしいです。僕はよく「デザインは文字と写真とイラストの三大要素で構成されていて、その組み合わせにオリジナリティが出る」と思うのですが、デザイナーが唯一自分の手で仕上げられるのって文字じゃないですか。文字デザインの基礎を丁寧に知って、追求することで「ビジュアルが引き締まる、デザインが整う」という理屈を越えた経験を積み重ねてきているので、社員にはタイポグラフィの重要性を伝えています。

佐藤卓さん、服部一成さん、仲條正義さんなどの著名なデザイナーはもちろん、若手デザイナーの方々を見ていても「文字を極めている人は、デザインも素敵だな」と感じますね。​​

―― DODO DESIGNには、フォントのガイドラインがあると聞きました。

堂々:はい。見本帳のような、推奨フォントリストを共有していて、日本語で20書体、英語で100書体ほど載せています。「これさえ使っておけば間違いない」というベーシックフォントと、毎年変化していくトレンドフォントをピックアップしています。情報共有が一瞬でできる時代になりました。

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デザイナーたちの多目的スペース。
色見本帳「PANTONE」や紙見本などが置かれている

―― フォントの他にも、共有しているものはありますか?

堂々:いい配色の例やWebサイトなどの情報はマメに共有し合っています。昔はカリスマデザイナーが業界を牽引していましたが、いまはCanvaのようなデザインアプリも登場して「全員デザイナーの時代」と言われていますよね。みんなスキルが高いし、情報格差もないですし、誰もが主役というフラットな雰囲気がある。

DODO DESIGNでも、社員全員からアイデアを募集して仕事を進めることがありますが、16人いたら16通りの発想が出てくるので興味深いですよ。面白いアイデアを組み合わせることもありますし、クライアントとも「共同作業」のような心持ちで、助け合いながら仕事に取り組んでいます。サポートし合う関係性です。

一人の力は小さくても、集合体の力は大きい。いまは世界中の人たちと繋がれるので、基礎を大切にしながらも型にはしがみつかずに、時代の流れを読んで「個性」や「得意」を磨いていってほしいです。

―― ありがとうございました。

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<プロフィール>
アートディレクター/クリエイティブディレクター/CEO
デザイン会社DODO DESIGNを経営。Have Funという生活をより豊かに楽しくするデザイングッズやNFTアートのブランドを運営する。
主なクライアント:JR東日本、JR東日本クロスステーション、 SONY、ダイハツ、KOKUYO、ベネッセ、大塚製薬、アンファー、ORBIS、FANCL、マネーフォワード、NewsPicks、アイセイ薬局、ドミノピザ、パティスリー キハチなど。
主な受賞歴:GOOD DESIGN賞、ADFEST AWARD、K-DESIGN AWARD、A' DESIGN AWARD & COMPETITION、日本パッケージデザイン大賞、ACC賞、他受賞多数。


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