映画「別れる決心」を観たんです
パク・チャヌク。
韓国人の監督の中で追っかけている唯一の監督なのだが、監督としての名前を聞くのは久しぶりだなあ…と思って調べたら、映画では2017年公開の『お嬢さん』以来だった。
『お嬢さん』も他のパク・チャヌク作品同様に監督の変態天才っぷりが遺憾無く発揮されていたコトを思い出す。ストーリーとか正直あんまり覚えてないんですけどね。ただただ変態の天才だ〜って思ったものです。
さてさて、新作の
『別れる決心』
はどうだろうか?
予告編やネットでストーリーを見る限り、何となく違うのか?でも、パク・チャヌクだし…なんて感じで見始めた。
サスガ
の一言でした。
不眠症で生真面目な刑事が容疑者である未亡人を張り込み、夜な夜な監視する。彼の視点は、いつのまにか彼女の傍に寄り添い始め、現実か妄想かわからなくなるカメラワーク。
空や海、空気の色までもCGによって描き出す映像美。CGが発達した今だからこそできる技術を惜しみもなく使う。それも、SFやファンタジー映画でないドラマで。
中国人女優タン・ウェイの怪しい美しさは、ファムファタルそのもの。生真面目な刑事が溺れていくのは宿命つけられているかのようだ。
この作品は彼女ありきの映画だ。彼女が韓国人監督キム・テヨンと結婚したのは2014年の事。別居報道もあったらしいが、今でも仲良く暮らしているらしい。韓国語も実際の生活で学んだのだろう。
ワタクシには彼女が話す韓国語の発音がどれほどのものかはわからないが、
パク・チャヌクは彼女の中国人=外国人である特性をも、本作品で巧妙に取り入れている。
それは彼女が韓国語で話せなくなる時に用いる携帯の翻訳アプリの多用であり、
彼女の選ぶ外国人によるものなのか、彼女の性格によるものか不明な単語のチョイスの数々。
正に、単一的、崩壊、溺れる、そして、愛してる…。
言葉遊びを敢えてわかるように、しかし、実はわからないままにするテクニック。そのため、「愛してると言わない愛してる」は既にTwitterでも数多く分析され、語られている。
こうしたことば遊びを確認するには、もう一度観に行かねばならないかもしれない。正にパク・チャヌクのトリックに引っ掛かる観客。
同時に、言葉遊びは正にロスト・イン・トランスレーションを生み、彼女のファムファタル性を際立たせる結果となっているのだ。
個人的には刑事の妻が彼に言った言葉も引っかかった。正確ではないのだけれど、「あなたは事件を欲している」的なセリフ。その時、妻はまだ彼女の存在を知らない。しかし、妻が指す刑事である夫が欲しているのは、正にタン・ウェイ演じる容疑者だ。未解決事件であるが故に追い続けてしまう。正に、解決を避けるかのようだ。
今回はエロでもグロでも暴力でも目立つ変態性はそれほどではなかった気がするが、
刑事としては当然の行為である監視、
初めてを過ぎると恐怖がなくなる殺人、
ファムファタルの持つ狂気、
充分に変態的だ。
パク・チャヌクは今回、いつも以上に理性的、知性的に抑えた形で変態性を描き上げた。
そのせいか、後半若干たるく感じたのも事実なのだが、そんなたるさをも吹っ飛ばすクライマックス。ああ、こんな方法を思いつくとは…。