江本孟紀はオールド野球解説者|「ミスタードラゴンズの失敗」(江本孟紀)
そんなものかよ、江本孟紀
【面白かった度】★☆☆☆☆
【オススメ対象】江本孟紀ファン、オールドメディアが好きな人
先の兵庫県知事選挙の結果判明後、テレビや新聞が「オールドメディア」と揶揄されることが多くなっている。
ちなみにchatGPTに「オールドメディアが批判される理由」について聞くと、以下のように教えてくれた。
<オールドメディア、特に大手新聞やテレビニュースは、しばしば特定の視点や政治的立場を反映した報道を行っていると批判されています。企業や広告主の影響を受けやすく、商業的な利益やスポンサーの意向に配慮した内容が強調されることがあります。
(中略)
広告収入や視聴率を最優先にすることが多いオールドメディアは、商業的な利益を重視するあまり、報道内容が圧力に左右されることがあります。特に大手企業や政府からの圧力を受けて、批判的な報道が抑制されることもあり、メディアの独立性に対する疑念が高まっています>
分かったような分からないような答えだが、私は江本孟紀氏の『ミスタードラゴンズの失敗』を読みながら、「オールドメディア」ならぬ「オールド野球解説者」という言葉が頭に浮かんだ。
立浪はコーチ経験がないまま監督をしたことが問題だった、中日は地元出身者を優先してドラフト指名していることが問題だ、ヘッドコーチがお友達の仲良しクラブじゃ勝てない、バンテリンドームにホームランテラスを作るべきだ、いっそのこと中日新聞は球団を手放せなどなど。そんなことは中日ファンの間では散々指摘、批判され尽くされたことでありヤフコメ民の書いていることと大差ない。
もっとはっきり言えば、この本で氏が指摘していることはどれも周回遅れであり、「さすがはエモやん!」と唸るような真新しい切り口の提案、指摘は一つもない。
氏がどこかに忖度したり商業利益を優先しているとは思わないが、「小笠原慎之介はウエイトばかりやってランニングをおざなりにしている」という指摘にも象徴されるように、その考え方の古さと情報の遅さと浅さから、読んでいて「オールド野球解説者」という言葉がお似合いだなと思ったのだ。
また、氏は往年の名選手であり監督経験者でもある中西太と山内和弘を引き合いに出し、立浪との決定的な違いとして「さまざまな球団を渡り歩いて指導をしてきたか」を挙げ、両氏に比べて立浪は指導者として経験が足りていなかったと指摘している。そのこと自体は事実だろう。
しかし、中西氏も山内氏も名コーチだったのかもしれないが名監督だったという記憶はまるでない。調べてみると中西氏は12年間の監督生活で優勝は一度だけ。その優勝を含めてAクラスは6度で半分はBクラス。山内氏も6年間の監督生活での最高成績は2位で優勝はなく、半分はBクラス。とても名監督だったと言われる成績ではない。
両氏を引き合いに出して、氏は一体何が言いたかったのだろうか?
指導者経験の豊富さと監督としての力量が比例すると言いたいのならば、論理が破綻していることに早く気付いた方がいい。この程度のことはググってみれば直ぐに分かることなのだから。
ググるといえば、星野仙一と同期入団の中津工業出身の大島康徳が、中日の悪しき慣習「中京圏出身のドラフト指名選手」の象徴の一人として紹介されている。これもググれば直ぐに分かることだが、中津工業があるのは大分県だ。この本はこの程度の校閲すらされていないらしい。
誤字脱字や思い込みからの事実誤認はよくあることだが、このレベルの残念な間違いを発見してしまうと「この本ってどれくらいの熱量で作られたのかな?」と、根底から色んなことを疑ってしまいたくなってしまう。
「このタイミングで江本孟紀の名前で立浪と中日をテーマに新書を出せばそこそこ売れるだろう」という程度の打算で作った本なんじゃないか? そんな余計なことまで考えてしまう。
私はいま、ありがたいことに「野球」に関連した仕事で食い扶持を得ることができている。しかしながら、野球を見るのも、野球をするのもそこまで好きではないということに最近になって気が付いた。では野球の一体何が好きなのだろうと自問してみると、「野球を面白く見る方法」や「野球の面白さを伝える方法」を考えたり、「野球」を編集して伝える事が好きなのだと確信するに至った。その考えの源流を遡っていくと、幼少期に出会った一つの野球映画に辿り着く。それが氏が1982年に上梓した『プロ野球を10倍楽しく見る方法』の映画版なのだ。
父がどこからかダビングしてきたビデオテープを、誇張なく、すり切れるまで何度も何度も、毎日毎日見た。「どこがそんなに面白いの?」と親に呆れられたものだ。
この映画を通じて、一番脳が柔軟だった時期に色んな角度から野球の面白さに触れることができたことは、私にとってはかけがえのない財産となった。いま「野球」を生業にできているのは、紛れもなく氏のお陰でもあるのだ。
だからこそ敢えて言いたい。
江本孟紀の本を読んで「オールド野球解説者」という言葉が頭に浮かんできたことが悲しい。
エモやん、あんたそんなもんじゃないだろ。
もっと面白い本、書いてくれよ。
桑田佳祐が「吉田拓郎の唄」を書いた理由が、いまよく分かる。
「ミスタードラゴンズの失敗」
江本孟紀
扶桑社新書
990円