ヨーロッパのナガコガネグモArgiope bruennichiの染色体レベルの参照ゲノム:生息域の拡大と進化的適応に関する研究のための資源(Sheffer et al., 07 Jan 2021b)
背景:ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)は,性選択,化学的コミュニケーション,急速な範囲拡大のダイナミクスなどを,行動や遺伝子レベルで研究するための焦点種として集中的に調査されてきた.しかし,参照ゲノムが存在しないため,これらの現象の遺伝的基盤に関する洞察は限られていた.そこで我々は,今後のより詳細な研究のためのツールとして,ヨーロッパのナガコガネグモの高品質な染色体レベルの参照ゲノムを構築した.
研究成果:ナガコガネグモの1.67 Gbのゲノムアセンブリ〔断片配列を繋げて対象ゲノム配列を復元するコンピュータ処理のこと〕を,21.8× Pacific Biosciences社のシーケンシングデータと19.8× Illumina社のペアエンドシーケンシングデータを用いて,近接ライゲーション(Hi-C)ベースのスキャフォールド〔scaffolding: 足場材料〕を用いて,新規に作成した.その結果,N50スキャフォールドサイズは124 Mb,N50コンティグ〔DNA配列断片群を重ね合わせしてできるコンセンサス配列や,それを構成する配列断片群のこと〕サイズは288 kbとなった.その結果,ゲノムの98.4%が13個のスキャフォールドに含まれており,予想される染色体数(n=13)に合致していた.また,解析の結果,91.1%の節足動物のBUSCO〔Core gene setがアセンブルされた配列の中にどれだけあるか調べることで,ゲノムシーケンスやトランスクリプトームシーケンスがどれくらいの精度でできているかを調べるもの〕が完全な形で存在しており,高品質なアセンブリであることがわかった.
結論:我々は,クモ目で初めての染色体レベルのゲノムアセンブリを発表した.これにより,ナガコガネグモだけでなく,クモ類全体の進化と適応に関するより精密で有益な研究への扉が開かれ,形質のゲノム構造,全ゲノム重複,糸と毒の進化のゲノムメカニズムなどの問題に光が当てられることになる.
Sheffer, M. M., Hoppe, A., Krehenwinkel, H., Uhl, G., Kuss, A. W., Jensen,L., Jensen, C., Gillespie, R. G., Hoff, K. J., Prost, S. 2021b. Chromosome-level reference genome of the European wasp spider Argiope bruennichi: a resource for studies on range expansion and evolutionary adaptation. GigaScience, 10(1), giga148(1–12).
https://doi.org/10.1093/gigascience/giaa148