クモArgiope bruennichiのクチクラおよび網の脂質の同定(Gerbaulet et al., 10 Jan 2022)
抄録:クモのクチクラ〔表皮を構成する細胞がその外側に分泌することで生じる,丈夫な膜〕や糸の脂質は,昆虫のものに比べて構造的に多様であることが明らかとなってきたが,これまでに調査された種は比較的少数にとどまっている.昆虫と同様に,このような脂質はさまざまな文脈でシグナルとしての役割を果たしているのかもしれない.ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)は,メスの性フェロモンの構造が知られているなど,クモの中では最もよく研究されている化学的コミュニケーション系である.最近,我々は,ナガコガネグモの血縁認識が,炭化水素とより大きな割合のワックスエステルからなるクチクラ化合物を介して行われることを示した.質量分析と様々な誘導体化手法により,これらは2,4-ジメチルアルカン酸と鎖長の異なる1-アルカノールとのエステル,例えば2,4-ジメチルヘプタデカン酸テトラデシルであることが確認された.この化合物の代表的なエナンチオ選択的合成を行い,同定を証明するとともに,天然のエナンチオマーは(2R,4R)配座である可能性が高いと仮定することができるようになった.雌の糸およびクチクラ脂質の化学的プロファイルは類似していたが,雄のクチクラ・プロファイルは雌のものとは異なっていた.雄のクチクラ脂質の主成分は2,4-ジメチル-C17-19アルカン酸トリデシルであったが,雌のそれはやや長く,2,4-dimethyl-C19-21アルカン酸トリデシルからなっていた.また,雌特有の4-メチルアルキルエステルもわずかに検出された.
Gerbaulet, M., Möllerke, A., Weiss, K., Chinta, S., Schneider, J. M., Schulz, S. 2022. Identification of cuticular and web lipids of the spider Argiope bruennichi., Journal of Chemical Ecology, 48(3), 244–262.