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1日8時間も働けない人たち

「働き方」というカテゴリーで何本か記事を書いてきました。
それらは、以下の切り口に大別されます。

✅日本特有の企業風土
✅長時間労働(働きすぎ)
✅評価の仕組みが悪い

これらは依然として重大な問題ですが、今新たに浮上しつつあるのはもっと根の深いものだと感じています。

それを 3行で要約してみます。
「仕事」と呼ばれるものの性質が大きく変わった。
人はもはや「仕事」に意味を感じなくなっている。
そんなものに時間と心身を捧げるのはアホらしい。


初めて就職活動をしたときのことを憶えていますか?
あの頃、仕事とは具体的に何をするのか、イメージできていましたか?

子供の頃に『サザエさん』を観て、波平さんやマスオさんが会社で何をしているのか謎でした。というか、疑問にすら感じなかった。
NHK教育テレビの『はたらくおじさん』は、消防隊員やケーキ職人などわかりやすい職業ばかり紹介していて、普通のホワイトカラーを取り上げたことなどなかったですよね。

そんな教育しか受けてこなかった人が、いざ就職する二十歳前後で「仕事」をイメージするのは無理です。
会社説明会などで偉そうに話す採用担当課長、中堅社員、若手リクルーターたちは、求められる人材像とか当社の企業理念といった抽象的な話しかしません。
就活生たちはその空気に呑まれて、御社のビジョンだの人材マネジメントだのと小賢しい質問を繰り出すのが精一杯でしょう。

むかし、リクルーターとして会社説明会の端っこに座っていたとき、こんな質問をした学生さんがいました。
「企画のお仕事とは、具体的に何をするものなのですか?例えば、〇〇さんは朝会社に来てから家に帰るまでどんなことをされているのでしょうか?」

壇上の〇〇さん(中堅社員)は、しどろもどろになってその質問に答えられませんでした。
私が面接官だったら、その学生を一発合格にする、と思った。 


ともあれ、入社して、最初のうちは疑問や苛立ちやがっかり感と戦いながらも、飼い慣らされていくものです。
2年もすれば、就活生相手に講釈を垂れるほどの “社会人” になっている。
でも、あのストレートな質問(あなたのお仕事は、具体的に何をやっているのですか?)にはたぶん答えられない。

最近の例を挙げましょう。
とある日本企業の就活生向けウェブサイトで見つけたものです。
「入社3年目、営業企画系の社員の一日」と題されたコラム。

8:30   出社。メールのチェック。急ぎのものに返信する。
9:30   定例ミーティング。進捗報告と情報の共有。
11:00 定例ミーティング後、行動計画を適宜修正する。
12:00 昼食。同期とざっくばらんに情報交換。
13:00 メールのチェック。急ぎのものに返信しつつ、重要案件にフラグ。
14:00 マーケ施策プロジェクトのミーティング。
16:00 ミーティングの議事録作成。
17:00 明日のミーティングの資料を確認する。
18:00 退社。

これを見て、就活生がどれくらい「仕事」をイメージできるのか、私にはわかりません。
なんやそれ?と感じる人が一定数いるでしょうね。
「仕事」ってそんなもんなん?みたいに。

そんな軽作業で安定したお給料をもらえるのか、ええなあ、と思える人もいるでしょうか。
一方、こんな 1日が毎日続くのが「仕事をする」ということなのか、と脱力する人もいるんじゃないかな。


50を過ぎた私がこんなことを言うのはおかしいでしょうか。
20代、30代、40代をバリバリやってきた人間が、今さら手の平を返したように宗旨替えするのはズルいですか?
私が年をとったのではなく、世の中がおかしな方向に行っている気がするんですが、そんなこと言ったらますます年寄り扱いされそうですね。

私は、ファイナンスとガバナンスでメシを食ってきた人間なので、ある意味典型的なブルシットジョバーです。
そんなキャリアをもつ私が、現在の行き過ぎた管理主義的傾向をヤバいと感じています。

現在私が勤務する会社では、Policy & Procedure というものが増殖しています。日本の会社でいう「社内規程」というやつです。
経理規程や決裁権限規程が必要なのはわかりますよ。でも、廃棄物処理規程とか贈答接待規程とか人権規程とか、しまいには規程管理規程なんてものまである。
それ要る?
明らかに、規程を策定すること自体が目的化しています。
さらにその規程を武器にして実務を妨害してくる内部監査部隊がいる。

この会社、終わったな。
と私は悟りました。だから、契約期間が満了したら退職して、日本に帰ろうと思っています。


この記事は、Yuitaさんの記事☟を読んで書きたくなったものです。

早く家に帰りたい人は、「仕事」に意味も価値も見いだせない。ただそれだけのことなんじゃないかな。
月 80h 残業する人はある意味幸せなのかもしれない。自分の仕事に価値を見いだしているのだろうから。それはいい。

自分の「仕事」に意味がないと思っている人は、1時間でも苦痛でしょう。
ましてや 1日 8時間もそれをやるのは拷問以外の何ものでもない。

「残業時間を減らそう」時代は終わったと感じます。
今は「8時間も働くのはやめよう」時代に入っている。
そして近い将来「働くのをやめよう」時代が到来するのかもしれませんね。

もはや労働「時間」の問題ではなくなっています。
仕事の性質が変わり、新しい時代の「仕事」の不毛さを見抜く人が現れているのだと思います。
「働きたくない」のではありません。不毛な「仕事」をやらされていることが苦痛なのです。

残業しない人を見て「最近の若いやつは怠け者だ」などと思っている人は、時代の変化を見落としているのかもしれませんよ。

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