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おやつ論文|スマホ使用で握力低下?

昨年の夏ごろ,研究室にグリッパーを持ち込み,毎日キコキコ握っていた。

生物としてある程度の戦闘力が欲しい,けど格闘技を習うお金も時間もやる気もない,じゃあ序盤で相手の戦意を喪失させられるであろう握力を付けたらいいんじゃないかと思い至ったことによる行動だった。

理由を人に話すとあからさまに(何言ってんだこいつ…?)という顔をされる。

そんなことはさておき,今回はスマホやパソコン等の機器使用が握力に影響するか検討した論文(Fain & Weatherford, 2016)を紹介する。

論文のタイトルは,
「Comparative study of millennials' (age 20-34 years) grip and lateral pinch with the norms」



握力・ピンチ力と健康の関連

握力とピンチ力(つまむ力)は手の怪我などを治療するための予測因子として,また病気や障害の危険因子を決定するために大事な指標であると多くの研究で示されている(e.g., Roberts et al., 2011)。

例えば,リハビリによる改善プロセスに使用する適切な臨床データとして利用できる。先行研究で示されてきたデータは妥当性と信頼性を有しているもので,機能障害や機能改善に関する臨床的推論に有用である。

しかし,握力に関する基準は1985年に制定されてから更新がされていない。
新たに若い世代(ミレニアル世代)のデータを測定し,社会や仕事の変化や技術使用の増加が握力・ピンチ力に影響を与えている可能性があるか判断する必要がある。

ということで,この研究では健康なミレニアル世代(20~34歳)とMathowietz(1985)を比較して,握力とピンチ力に違いがあるか検討することを目的とした。


2016年と1985年の比較

握力の差

年代(20-24,25-29,30-34)と左右の手で握力の比較を行った。

その結果,男性は全ての年代と両手で1985年の方が有意に握力が強かった。女性は20-24歳の右手が1985年の方が有意に握力が強く,30-34歳の両手で今回(2016年)の方が有意に強かった。20-24歳の左手と25-29歳の両手は有意な差は見られなかった。

ピンチ力の差

ピンチ力は男性の全ての年代で有意な差が見られなかった。女性は20-24歳の左手,30-34歳の両手で今回(2016年)の方が有意に高かった。


まとめ

分析結果から,1985年と2016年の間に若年層の握力に何らかのずれがある可能性が示された。ただ,今回の対象者は大学でサンプリングしたため,一般集団よりも学歴が高く,パソコンの使用時間や座位時間が長かった可能性があることを考慮する必要がある。


気になったこと

研究目的で「機器使用が握力に影響があるか」と掲げているが,調査内容では機器に関することが触れられておらず,考察でも限界のところで少し触れているだけだった。座位時間かスマホ使用時間とか聞いて,高群低群に分けて1985年と比較したら面白かったのに…。


ちなみに

この論文へのコメント論文もある(Hollmann & Schifferdecker-Hoch, 2016)。コメントでは,今回は手だったけど私たちがやった背中と首の調査でも同じような結果だったよ!と言われている。社会全体としてより少ない動きへの傾向があり,それによって筋骨格が弱くなっていると考えると,筋力の低下は全身的な問題の可能性がある。とのこと。

コロナ禍になって運動する人が増えたと言われているが,ここ2,3年でまた変化はあったんだろうか。ちょっと調査してみたいな。


< 紹介論文 >

Fain, E., & Weatherford, C. (2016). Comparative study of millennials' (age 20-34 years) grip and lateral pinch with the norms. Journal of hand therapy : official journal of the American Society of Hand Therapists, 29(4), 483–88. https://doi.org/10.1016/j.jht.2015.12.006


< 文献 >

Hollmann, M., & Schifferdecker-Hoch, F. (2017). Comparative study of millennials (age 20-34 years) grip and lateral pinch with the norms. Journal of hand therapy : official journal of the American Society of Hand Therapists, 30(1), e1. https://doi.org/10.1016/j.jht.2016.10.002

Mathiowetz, V. (2002). Comparison of Rolyan and Jamar dynamometers for measuring grip strength. Occupational therapy international, 9(3), 201–209. https://doi.org/10.1002/oti.165

Roberts, H. C., Denison, H. J., Martin, H. J., Patel, H. P., Syddall, H., Cooper, C., & Sayer, A. A. (2011). A review of the measurement of grip strength in clinical and epidemiological studies: towards a standardised approach. Age and ageing, 40(4), 423–429. https://doi.org/10.1093/ageing/afr051


その他,おやつ論文(研究以外で読んだ論文)は
こちら! 


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