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統計|時系列データから因果関係に迫る―媒介編―
前回,交差遅延効果モデルについて備忘録的にまとめてみた。
今回はその応用として,
交差遅延効果モデルによる媒介要因の検討
について,ある論文の一部を紹介する。
論文はこちら
Law, K. S., Wong, C. S., Yan, M., & Huang, G. (2016). Asian researchers should be more critical: The example of testing mediators using time-lagged data. Asia Pacific Journal of Management, 33(2), 319-341.
前回は,2つの要因の関係について,時間データを含めたモデルである交差遅延効果モデルを,SEMを用いながら分析してみようという内容だった。
さて,ここで1つ疑問がわく。
2つの変数の関係しか見られないの?
結論,交差遅延効果モデルで3つ以上の変数を入れて分析することはもちろん可能。この論文を紹介するに至った理由は,「媒介変数って調べられないの?」という疑問を持ったからである。
今回の論文は「アジア人さ!媒介要因の分析をするなら交差遅延効果モデルを使いなよ!」という内容(タイトル見たときクスッときた)。とてもざっくりではあるが,順を追って説明していこう。
媒介分析の種類
Law et al. (2016) では,媒介要因の分析の仕方について,4つのやり方があることを紹介している。
① 1-1-1 model | 1時点測定
独立変数,媒介変数,従属変数は同時測定
② 1-1-2 model | 2時点測定
独立変数・媒介変数は Time 1,従属変数のみ Time 2
③ 1-2-3 model | 3時点測定
独立変数はTime1,媒介変数は Time 2,従属変数は Time 3
➃ CX model | 3時点測定
全ての変数を全時点で測定
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2波でも媒介要因は分析可能
媒介要因の分析をする際も,2波モデルで分析できる。モデルの解釈の仕方は以下の通り,赤いパスが有意なパス,青いパスが n.s. のパス。
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2波のモデルを分析することで,こういった3つのモデルを検証することができる。
3波で媒介効果を見る
さて,本題。3時点での調査,さっきの CX model で媒介分析をすることができる。
下の赤いパスのように,
X1 (T1) → M2 (T2) → Y3 (T3)
と有意なパスが出ていればMは媒介変数として見ることができる。
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媒介の強さ(a*b)の高,中,低は,
β (a*b) = .185,.080,.021
とも記載されている。
(論文 p. 8, 5~8 行目,雑誌では p. 326)
日本の文献
日本で交差遅延効果モデルによって媒介要因を分析している論文を一つ紹介する。
中須賀 巧・阪田 俊輔・杉山 佳生(2018).体育学習における動機づけ雰囲気,目標志向性,生きる力の因果関係の推定 体育学研究,63,623-639.
この論文では,
動機づけ雰囲気(独立変数)
↓
生徒の持つ課題・自我志向性(媒介変数)
↓
生きる力(従属変数)
という関係について,5波(すごい)の交差遅延効果モデルで分析している。ちなみに仮説モデルはこんな感じ(ごつい)
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自分は交差遅延効果モデルの媒介分析を調べ始めたときにこの論文にぶつかり,媒介モデルの読み取り方はこの論文で勉強した。正直モデルを見たときはそのパッと見の複雑さに引いた。ただなんてことは無い,見るのは4つの変数の関係だけ。
結果についてはここでは書かないが,交差遅延効果モデルについて勉強する人はぜひ読んでほしい論文。
まとめ
さて,交差遅延効果モデルについて2回にわたって説明してみた。
もともとこのモデルに興味を持ったのは,先輩の学会発表を見て「なにこれおもしろい!」と思ったからである。
あれから2年たち,自分の博論研究でも使いたい!と思って先輩に聞いたり,論文を漁ったりして勉強を始めている。今回はその備忘録。
自分は統計が得意ではないし,SEM の計算方法とかも熟知しているわけではない。どこか不適切な表現等あったら教えてほしいです。
(2021年11月15日)
交差遅延効果モデルをまとめるついでに同時効果モデルと潜在曲線モデルについても記述した資料があるのを完全に忘れていました。
ってことでSlideShareにアップしてあるものを追加します。
フォントが崩れたりしてるかもしれないから見づらかったらDLしてもらえれば多少マシかも...?
(2023年8月29日)
続き投稿しました!!!
↓↓↓
(2024年2月27日)
交差遅延効果を分析したらモデル適合もしないといけない。
ということでちょっとこの分析とは違う話になりますが,モデル適合度についての記事もアップしたので是非。
< 文献 >
Law, K. S., Wong, C. S., Yan, M., & Huang, G. (2016). Asian researchers should be more critical: The example of testing mediators using time-lagged data. Asia Pacific Journal of Management, 33(2), 319-341. https://doi.org/10.1007/s10490-015-9453-9
中須賀 巧・阪田 俊輔・杉山 佳生(2018).体育学習における動機づけ雰囲気,目標志向性,生きる力の因果関係の推定 体育学研究,63,623-639.https://doi.org/10.5432/jjpehss.17104