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放送作家からの〝悪文注意報〟その表現がより伝わるために。

うちの息子と娘はある点でとても対照的です。

例えば、一日で起きた出来事について僕に教えるとき。「あのさ、今日は〇〇なことがあって」と切り出すところまでは一緒なのに……、

その先、話が入ってくるかどうかがまるで違う😅

一方はスッとくるけど、一方は今ひとつ。不思議なことに、3歳年下の娘のほうが昔から伝わりがイイんです。どうして、そんな差が生まれるのか。

話の構成がうまいから?
いえ、原因はもっと「そもそも」な部分にあります。

〝話〟の構成ではなく〝一文〟の作り方がうまいからなんです。

では、例文で解説していきましょう。

娘に「誰もが知っている漫画ってなんだろう?」と尋ねたところ『鬼滅の刃』との答えが返ってきたので、そちらの名場面を描写することにします。 

強敵・猗窩座あかざとの戦いで瀕死の重傷を負った煉獄は、悔しくて泣き叫ぶ炭治郎を見て、優しく語りかけた。命が尽きる前に、伝えたい思いがあった。

「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ」
「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年、もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ」
「俺は信じる。君たちを信じる」

そのとき、ふと炭治郎越しに幻が浮かんだ。幼いころから「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」と煉獄に言い聞かせてきた亡き母だった。

「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?」
「立派にできましたよ」

その言葉に、煉獄は子供のような笑顔を見せたのだった。

仕事でこのような原稿を見かけたら、僕は〝悪文注意報〟を出します。文章として破綻はしていませんが、ちょっと不親切に感じます。

1段落目、僕ならこうします。

強敵・猗窩座あかざとの戦いで瀕死の重傷を負った煉獄は、悔しくて泣き叫ぶ炭治郎を見て、優しく声をかけた。命が尽きる前に、伝えたい思いがあった。

↓ ↓ ↓

煉獄は瀕死の重傷だった。強敵・猗窩座あかざとの戦いによるものだ。悔しくて泣き叫ぶ炭治郎を見て、優しく声をかける。命が尽きる前に、伝えたい思いがあった。

字数は増えているのですが、情報はスッと入ってきませんか。

ポイントは〝一文の長さ〟と〝修飾語〟です。

(旧)はとにかく一文に情報を詰め込みすぎ。人間の脳って、一度に処理できる情報が意外と少ないんです。なので、なるべくシンプルな表現にしてあげる必要があります。

心理学の分野では〝認知負荷〟というそうです。

対策としては……、

①長い一文を二文、三文に分ける
②余計な「修飾語」は後回し

(旧)は「煉獄」という主語の前に、長々と修飾語があります。受け手にとっては〝認知負荷〟が大きいわけです。

つまり、場面が想像しにくい。

試しに、頭の中で映像化してみてください。

最初は「煉獄のアップ」から。
その場にいない猗窩座とはならないはず。
次は「炭治郎との位置関係」がわかるカット。
そこから優しく声をかける。

受け手は「ああ、血みどろだ」「強敵に受けたものなのか」「炭治郎が泣き叫んでいる」「そこに声をかけたのか」と順番に理解していけます。

この感覚を文章を書くときに意識してほしいのです。

続いて、3段落目。

そのとき、ふと炭治郎越しに幻が浮かんだ。幼いころから「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」と煉獄に言い聞かせてきた亡き母だった。

↓ ↓ ↓

そのとき、煉獄の目にふと幻が浮かぶ。炭治郎越しに見えたのは、亡き母の姿だった。幼いころから「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」と言い聞かせられてきた。

ここも同じ理屈です。(旧)は「亡き母」がわかるまでが長すぎます。

あと細かい違いなのですが、(新)のほうがワンカット丁寧になっています。

(旧)はいきなり炭治郎越しのカットなのに対し、(新)は「なにかに気付く煉獄」を想像させてから、炭治郎越しのカットに行く感じです。

こうした〝間〟の描写も伝わる文章のコツといえるでしょう。

それを意識したのが、最後までの流れ。

「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?」
「立派にできましたよ」

その言葉に、煉獄は子供のような笑顔を見せたのだった。

↓ ↓ ↓

「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?」

「立派にできましたよ」

その言葉に煉獄が見せたのは……、

子供のような笑顔だった。

煉獄の問いかけに対し、母が答えるまで。
母の言葉に対して煉獄が笑顔を見せるまで。

映像化したら、たっぷりと〝間〟をとる場面です。なので、あえて改行と「……」を入れてみました。

(新)をつなげると、こうなります。

煉獄は瀕死の重傷だった。強敵・猗窩座あかざとの戦いによるものだ。悔しくて泣き叫ぶ炭治郎を見て、優しく声をかける。命が尽きる前に、伝えたい思いがあった。

「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ」「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年、もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ」
「俺は信じる。君たちを信じる」

そのとき、煉獄の目にふと幻が浮かぶ。炭治郎越しに見えたのは、亡き母の姿だった。幼いころから「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」と言い聞かせられてきた。

「母上、俺はちゃんとやれただろうか。やるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?」

「立派にできましたよ」

その言葉に煉獄が見せたのは……、

子供のような笑顔だった。

僕が行なった修正は、みっつ。

①長い一文を二文、三文に分ける
②余計な「修飾語」は後回し
③〝間〟をとる

あなたは〝一文〟の構成まで意識できていますか?

それと……、

〝句読点〟も意識できていますか? 未読の方、よかったら🤗

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せき|放送作家|オリックス&ジャンプ好き
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