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【神演出】決定的瞬間は「間」が命~漫画『ONE PIECE』~
決定的瞬間を、いかに決定的に見せるか。
僕が放送作家の仕事をする上で、ほぼ毎週のように議論するテーマです。
演出次第では、100万パワーの画が1200万パワーにもなるし、その逆もあり得ます。また、95万パワーが7000万パワーにだってな……。
ハイ、失礼しました。
時に、たった0コンマ数秒の「間」が出来を左右することもあり、本当に難しい。だからこそ、心の四次元ポケットにしまっておきたいのが……。
『ONE PIECE(ワンピース)』44巻に収録された「帰ろう」という回です。
決定的瞬間の直前に作られた「3ページの間」に、神演出を感じました。
✅決定的瞬間までの流れ
44巻は2006年12月発売。軽くおさらいして記憶を整理しましょう。
👉CP9という諜報機関に連れ去られたニコ・ロビン
👉麦わらの一味は仲間を奪還しに「難攻不落」の島へ
👉バトルは最終局面、ルフィがCP9最強のロブ・ルッチに大苦戦
👉さらに島には海軍本部から大戦力が襲来し、島は砲撃の嵐に
👉一味が脱出するための船も破壊されてしまう
👉なんとかルッチを撃破したルフィだったが、精魂尽き果て動けない
👉軍艦に取り囲まれ、島からの脱出は絶望的……‼
その時でした。
窮地を救うため、現れたのは意外な援軍――。
一味の船・ゴーイング・メリー号!
✅何故その瞬間が神演出となったのか
主人公(または仲間)が窮地に立たされたとき、味方(またはかつての敵)が駆けつける。少年漫画ではよく使われる「王道」の展開です。
そして、このケースは「王道」を極めた「極王道」だと、僕は思うのです。
最大の要因は、頼みのルフィがにっちもさっちもいかない!となってから、メリー号が登場するまでの3ページにあります。
はじめに、ウソップが「声」に気づく。
ルフィにも、仲間たちにも「声」が聞こえ始める。ルフィ「下を見る?」
ウソップが叫ぶ。「海へ飛べ―――‼‼」
「自滅する気か‼!」と制止するゾロに、ウソップが詰め寄る。「まだおれ達には……‼」「仲間がいるじゃねェかァっ‼!」
全員が気づく、その存在に。「海へ‼」「海へ――‼!」はためく海賊旗がカットイン。
ここまで3ページ。
そして、ページをめくると見開きでのメリー号登場。「迎えに来たよ‼」
いま読み返しても、感動で泣けてきます😭
これ、絶体絶命の場面から1ページの間でメリー号を登場させても、成立はしたと思うんです。では、何故3ページなのか。
読者は思ったはずです。この場を切り抜けられる戦闘力を持つ味方なんて、もういない。一体、誰の声? まだ仲間がいる? どういうこと?って。
確かに、27巻と37巻でメリー号には船の妖精が宿っているという伏線はありました。しかし、戦いが始まる前、再起不能の状態にあったため、遠く離れた島に残してきていたのです。
つまり「切り札」の存在は完全に意識の外へと追いやられていた。
だからこそ、1ページではなくて3ページが効く。ちょっとだけ長く読者を立ち止まらせたことで、メリー号登場という決定的瞬間が最大限に引き立ったんです。
✅疾走感のある展開で感動を連鎖させる
「帰ろう」の翌週、その翌週も展開に疾走感があってよかったです。間延びは大敵。せっかくの神演出が薄らいでしまうので。
麦わらの一味がそれぞれ持ち味を発揮して、ついに島から脱出。
そして、メリー号との別れ……。
「おれは今…奇跡を見てる」
「もう…限界なんかとうに越えてる船の奇跡を」
「――長年、船大工をやってるが、……おれはこんなにすごい海賊船を見たことがない」
「見事な生き様だった」
船大工・アイスバーグの言葉で、メリー号との別れを決意するルフィ。
役目を終え、炎とともに沈みゆく船を全員が見届ける。
ふと、降り始めた雪と追憶が重なる。
メリー「今まで大切にしてくれてどうもありがとう。ぼくは、本当に、幸せだった」
……船にここまで感情移入させられるなんて!
まさに計算しつくされた神演出、作者の尾田栄一郎先生による感動のJET銃乱打(ガトリング)。心の四次元ポケットにしまっておきます。
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