【映画噺】 TAR/ター 5月12日公開
これ以上ない話題作
アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞をはじめとする主要6部門ノミネート、ケイト・ブランシェットが出ていて面白くないわけがない!
実際に海外のサイトでも評判は良く、試写も1度とった予約を変更しなくてはならないくらい、関係者の間でも特にこの時期注目度の高い作品です。
STORY
感想
タイトルにもなっているTARとは主人公のラストネーム。それまで偉大なる指揮者といえば、男性ばかり。でも時代の流れも後押しし、アメリカの5大オーケストラで指揮を務めた後、ついにベルリン・フィルで女性初の主席指揮者となったリディア・ター。自伝を出版したり、講演会に呼ばれたり、後進の支援財団を作りジュリアードで教鞭をとるなど、一見順風満帆です。
華々しく描かれていて、時に謙虚に振る舞いながらも、全てはセルフプロデュース。「歴代の巨匠たちに名を連ねるのだ!」と理想像を作り上げていきます。
バリバリ活躍する彼女を支えるのはコンサートマスターでヴァイオリン奏者でありながら恋人でもあるシャロンと、ターの副指揮者をめざしつつ付き人のように全てをこなす優秀なアシスタントのフランチェスカ。そんな愛情や尊敬の念から支えてくれている身近な人との関係も「とある知らせ」をきっかけに崩れていきます。
音楽に関しては天才的な才能を持っているにも関わらず非常に脆い部分もあって、一点の漆黒がじわじわと広がっていくように映画に不穏な空気を漂わせていくんです。
自分が意図しない音に何度も煩わされたり、夜中に目を覚ましたり、潔癖症なところもあるし、ルーティンでがんじがらめなのかな?という側面も垣間見えます。
また、全てを自分の思い通りにしたいというコントロール・フリーク的な面が根本にあって、「指揮者は”時”すら操るのだ。」と、冒頭のインタビューシーンでそう答えるくだりがあります。声も低く落ち着いた語りを見せるのがこの場面。こういったブランディングがうまくいって上り詰めたのに、過去に関わった”人物”からの執拗な連絡に手を焼いてしまうんですね。
この”人物”とは最後まで向き合おうとはしません。イライラを断ち切るかのように猛烈に走ったり、ボクササイズで汗を流したりするんですが、どんどん自分で追い込んでいるようでもあり、全てにおいて何か苦しいなとも思いましたね。
そんな中見出した才能がチェロ奏者のオルガ。若くて美しく才能に溢れ、ターのタイプだったか…はさておいて、お気に入りの子を贔屓したり抜擢したりってのは男女問わず「ありそうな話」だなと。
オルガもオルガで今時の悪気のなさそうな厚かましさとか、ちょっと利用しちゃうようなところとか、繊細なTARはおそらく気づいていながらよくしてやるんですよね。
最初はLGBTQがもっと主軸で描かれているのかな?と思っていたんですが、主人公が女性でレズビアンという設定だけで、どこの業界にもきっとあるんでしょう、今回で言うとオーケストラ内での権力闘争とか政治とか、主席指揮者まで上り詰めたのに、過去に翻弄されながら心身のバランスを崩していく1人の指揮者の物語でした。そうとらえてもう一度見てみたい気もしますね。
エンディングは個人的には苦手な「ゆだねる」系です。「どういうこと?」としばらく考えてしまった帰り道でした。早く誰かと答え合わせしたい!
個人的には「人はやっぱり変われない。」と言うふうにみると、ストンと納得できるものがありました。やっぱこの人はセルフブランディング命で、コントロール・フリークなのも変わっちゃいないというね。
ただこの解釈も本当にさまざまだと思います。
賛否も好き嫌いもはっきりと分かれる映画だと思いますが、一つ言えるのはケイト・ブランシェットがすごい!ということ。狂気も滲み出る怪演っぷりで、すごんでも、髪がボッサボサでも、そこには凛とした高貴な美しさがありました。鑑賞後に話したくなると思うので、ぜひどなたかと一緒にどうぞ。
予告編
公式サイト
クレジット
『TAR/ター』
■公開:5月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
■コピーライト:© 2022 FOCUS FEATURES LLC.
■配給:ギャガ
■スタッフ・キャスト
監督・脚本・製作:トッド・フィールド『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』
出演:ケイト・ブランシェット『ブルージャスミン』、ノエミ・メルラン『燃ゆる女の肖像』、ニーナ・ホス『東ベルリンから来た女』、ジュリアン・グローヴァ―『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』、マーク・ストロング『キングスマン』
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル 『ジョーカー』(アカデミー賞作曲賞受賞)
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
編集:モニカ・ヴィッリ
■基本情報
原題:TĀR/アメリカ/2022年/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/159分/映倫G/字幕翻訳:石田泰子
配給:ギャガ