砂上:桜木紫乃:どう読む。何を感じる。
「砂上」(93/2020年)
やっぱ北海道だ。桜木を読むたびに、北海道が良い場所なのか悪い場所なのか分からなくなって、一周まわって「惹かれる」土地になっていく。最後に行ったのは7,8年前か。青い池、凄かったなぁ。
さて、劇中劇というか、作中作というか。主人公の女性が小説を一作品書き上げるという内容の小説だ。桜木本人と主人公、令央は似ていると言えば似てるって感じ。その距離感がうまい。あ、これ、桜木が自分のことを書いているんだと思わせての、いや、こんなはずない、完全に作り事だと気付かせる。でも、桜木の書いた言葉である以上は、桜木のことなんだ。
女性編集者も凄い。映像化、キャスティングするなら篠原涼子でお願いしたい。例のハケンの人くらい超絶優秀。本作品の唯一の「フィクション」を感じさせてくれる仕掛けの部分だ。彼女の無鉄砲さが、他の部分にリアリティを持たせるので、読者はより動揺する。
でも、あんな編集者、現実にいたら、どうしよう…怖すぎる。
小説が出来上がっていく一つのプロセスを教えてくれる「お仕事」小説の一面も楽しめる。著者によってそれぞれプロセスは異なるだろうが、その中の一つを、かなり間近で見ることが出来、ちょっと興奮した。
平凡な人間が徐々に研ぎ澄まされていく「成長譚」としても楽しめる。成長の糧は、最終的には自己の中にしかないってことだ。それを自分で発見するのか、他人に引きずり出してもらうのか。人生は難しいものですねぇ。
読書の楽しさを十分に教えてくれる作品です。読む人分の「何か」が詰まった本作、30年後、生きていたら、再読したいものよの。
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