映画関連ロゴ。そして「ジュラシック・パーク」のロゴが良くできている話。
今年のお正月の話です。箱根駅伝の復路をぼんやりと見ながらツイートしたら、あっという間に拡散され、青山学院大学の大会新記録と並走して、私史上のいいね最高記録を出してしまったのが下記の投稿。
「バズる」とは、嬉しいよりも怖いって感じでした。まぁそんな話はさておき、今回は女神様にあやかって”ロゴ”の話をさせてください。
ツイートに書いた通りで、ロゴにはそれぞれ歴史があり、作成したデザイナーさん及び製作陣の並々ならぬ時間とこだわりが詰まっています。そんなこだわりのごく一部ですが、深掘ってみようという試みです。
映画に登場するロゴ
冒頭で流れるロゴ
映画が始まると冒頭でいくつかの会社のロゴがゾロゾロっと出てきますね。あの時点でテンションが上がるあなたは、ニュー・シネマ・パラダイスのサルヴァトーレ少年並みの映画好きですが、整理をすると、あれらがその映画に関わった製作会社や配給会社、その他関連会社のロゴになります。
海外の映画を例に挙げてみます。2019年の北欧異教徒カルト団体フェスティバル映画、アリ・アスター監督作品『ミッドサマー』では、
日本における配給会社のファントム・フィルムのロゴ、
世界へ向けた配給を行ったA24のロゴ、
そして製作を担当したBR・F(Bリール・フィルムズ)のロゴが出てきます。
製作や配給会社のロゴが複数あったり、ほかの関連会社のロゴがあったりなかったり…オトナの事情が介在しそうです。(教えて!詳しい人!)劇場公開時にはあった日本国内での配給会社ロゴが、レンタル・配信時にはなくなっていることもあります。
A24のロゴ
アメリカの映画会社A24は、作品ごとにロゴを変えたりすることでも有名です。『ミッドサマー』の予告編では下記のロゴを使っています。(劇場本編でも使っていたかは忘れてしまった。)これ映像だと草花動くんで超不気味。(褒めてます。)
これ、実はかなり凄いことだと思うんです。ロゴって社会に向けたメッセージの意味合いもあるので、フレキシブルに変えられるケースの方が少ないんです。
▼私が以前、働いていた会社でのエピソードですが…
誤解が無いように言うと、デザイナーさんを非難したいのではありません。ロゴに込められたメッセージはそれほど重いものです。藤原竜也レベルのスライディング土下座をかましても、変えられないのが普通です。
A24ロゴが凄い!話に戻ります。同社は決して「ロゴ?お好きに変えてどーぞ!」みたいな軽ノリ経営方針なのではありません。このロゴは、映画ごとにデザインを変えてもブランドメッセージが損なわれないよう設計されている上に、変えた結果それぞれの映画の特徴も押さえているから凄いのです。
架空の企業や団体のロゴ
以上、実在する会社の話をしてきましたが、映画に出てくる架空の企業にも凄いロゴがあるんです。リアリティを追求した映画の中は、架空の企業であっても、現実と何ら遜色ないレベルで設計されているロゴがあります。
その代表例が『ジュラシック・パーク』です。
小谷 充氏の著作である「映画のなかのロゴマーク 視覚言語と物語の構造」という書籍の中のエピソードを、私見も交えてご紹介します。
ジュラシック・パークのロゴが凄い理由
単色印刷ができるよう設計されている
「なまらカッケェ!」という私の主観的な意見はさておき、ジュラシック・パークのロゴは”複製適性”が高いというのが、優秀である理由の1つです。
グッズや看板、テレビCM、書類や社員の名刺など、様々な場面で使われる事に耐えうるデザインになっているという事です。分かりやすいのは「単色印刷できるかどうか」。
カラー印刷しなくても、形状を損なう事が無いよう(会社としてのメッセージが担保されるよう)単色印刷できるようになっているロゴを持つ会社は、現実にも多いです。
お馴染みのジュラシック・パークロゴはというと、赤と黄色の間に太い黒の実線が入り、外側の黄色にも細い黒の輪郭線があります。この線があることでそれぞれの色が囲われ「単色表現」が可能となっています。
会社のロゴは書面や名刺などに入るため、何百、何千と印刷される機会があります。カラーでしか表現できないとなると、印刷コストが膨大に。しかも公開当時の1993年は、今よりずっとカラー印刷費用も高かったでしょうから、「白黒表現できる」というのが企業にとって重要なコスト削減ポイントだったハズです。
そういった世相もこのロゴには反映されています。
オリジナルフォントがある
ロゴに使用されている「JURASSIC PARK」のカッコ良い文字フォントについて、よくよくシーンを見ていくと、登場するのはロゴに使用されている「J,U,R,A,S,I,C,P,K」だけではないんです。
意外とあるんですよ。例えば…
覚えてますか?このシーン。制作過程で画面上にどんな文字要素を登場させることになっても困らぬよう、事前にアルファベット26文字分のフォントデザインを作ってると思いますよ…多分ですけど。
書籍の中ではNeuland(ノイラント)というフォントを雛型に設計しているようだ、と紹介されています。確かによく似ている。
運営会社ロゴと全く違うデザイン
劇中の会話にあまり登場しないので、聞き覚えがない方もいるかもしれませんが、ジュラシック・パークの運営母体は、ジョン・ハモンド爺さんが創立した「インジェン社(International Genetic Technologies Inc.)」というバイオテクノロジー企業です。
同社の事業の1つであるパークのシンボルがお馴染みのあのロゴという訳です。インジェン社には、会社としてのロゴが別であります。
どんな感かじのロゴかというと…
いや、全然見たことねぇし…!って感じですよね。実を言うと私もです。でもちゃんと劇中で使われてるんですよ、島へ向かうヘリの側面とか。ちっちゃいですけど。
このBtoB感溢れるインジェン社ロゴと、パークロゴのデザインを担当した人って同じだと思うんです。少なくともこれらを統括するディレクターはいたはず。
老若男女に夢と驚きを与えたいパーク、それを運営するバイオテクノロジー企業。明確に違う方向性のデザインで製作されていることが分かります。
ロゴが演出に一役買っている
書籍「映画のなかのロゴマーク 視覚言語と物語の構造」の中では、ジュラシック・パークロゴは「理性」と「野生」を分ける演出に使われているという話があり、これが大変素晴らしいので、気になる方は是非本を読んでいただきたいです。
本の中で紹介されているロゴの使い方を参考に、シリーズ4作目の『ジュラシック・ワールド』をロゴに注目しながら観てみました。
まず整理したいのが、『ジュラシック・ワールド』には、パークを運営するマスラニ社と、インドミナス・レックスを捕獲/討伐するためのインジェン社の対立構造があるという点です。クリス・プラット演じるオーウェンたちと、フルメタル・ジャケットのほほえみデブ率いる軍隊との対立です。
そして、この映画でインジェン社は悪物として扱われています。なので、インジェン社ロゴは「はい、今から軍事行動を起こして良からぬことをしでかしますよ」というタイミングで、ここぞとばかりに登場します。
特に写真の3枚目のシーンは、いよいよインドミナス・レックスを討伐するぞってタイミングで、軍用車のドアを開けるシーン、ロゴが光の反射で一瞬光るように撮られています。これは意図的な強調ではないかなと思います。
おわりに
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』でお馴染みロゴはどうなるか
続編の『ジュラシック・ワールド 炎の王国』でもロゴに注目して鑑賞してみましたが…驚いたことに、ロゴはほとんど使われていませんでした。
たまたま映り込んだロゴはあるものの、明らかに意図して見せたと思われるシーンは下記の1つだけ。
火山が噴火し、溶岩によってジュラシック・パークロゴが見えなくなっていきます。「所詮、人類は自然の力を前に成す術はない」というのが、シリーズの一貫したテーマの1つだと個人的には考えていますが、このシーンでは「人類の創造したものが自然に淘汰される様」を、より効果的に見せていると思います。
このシーンを最後にロゴは出てきません。”炎の王国”はパークやロゴと決別する、重要な役割の映画となりました。
さぁ、そして最新作『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』で、ロゴはどのように扱われるのか、気になるところです。恐竜たちが世に解き放たれて、地球自体が”ジュラシック・ワールド”と化した世界においては、もはや恐竜のテーマパークは必要ありません。なのでパークのロゴも必要ないハズです。
でも…気持ち的には、どこかでロゴを象徴的に使って欲しいなぁと思っていました。そんなところへ、この予告編。
まさかの、シリーズを象徴するロゴを実写で魅せる手法でやってきました。
本編を楽しみに待ちましょう!これからシリーズを復習されるという方も、ロゴに注目すると面白いのでオススメですよ。ではまた次回!
2022.07.31追記
『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』を早速鑑賞しました。この作品でもやっぱりロゴによる演出はあったと思います。ジュラシック・シリーズを通して、姿勢を貫いてくれて嬉しいです。
ネタバレにならないと思うので書きますと、「バイオシン」という新しい世界的企業が登場します。この会社のロゴは劇中でも至る所に場面問わず出てくる印象でしたので、インジェン社の時のようにマイナスイメージを暗示するため、というよりは世界的に力を持った企業だという事のアピールのためだと思います。
下記が「バイオシン社」のロゴです。鑑賞がこれからの方はぜひ探してみてください。
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