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『マッドマックス:フュリオサ』は「怒りのデス・ロード」で予習・復讐
アクション映画というジャンルが敬遠されがちなアカデミー賞においてすら、技術部門で6つのオスカー像をかっさらった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から9年。前日譚となる『マッドマックス:フュリオサ』がいよいよ日本でも公開された。
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前作「怒りのデス・ロード」の作り込まれた世界観には、劇中で語られることのなかった膨大な量の設定があり、そんな奥行きがビジュアルや俳優の演技に昇華され、リアリティの下支えとなっていた。
例えばジョージ・ミラー監督は撮影時点で、フュリオサの生い立ちや腕を失った経緯などが分かる前日譚の脚本を、フュリオサ役だったシャーリーズ・セロンに役作りの参考として渡していた。『マッドマックス:フュリオサ』の製作にあたってどのくらい改稿されたかは分からないが、前作の時点で脚本ができていたのだ。
新作では前作に入りきらなかったそういった要素が、新たな物語となって映画化され、今回ついに日の目を見たのである。女戦士フュリオサのバックグラウンド、前作でワードしか登場しなかった「弾薬畑」に「ガスタウン」、そしてフュリオサの故郷の「緑の地」。
よって『マッドマックス:フュリオサ』は、もちろん迫力あるアクションシーン満載の映画であることに間違いはないが、「怒りのデス・ロード」をシンプルにコピーしたようなオールアクションのチェイスものではない。本稿では両作の違いと共通点をいくつか紹介するので、ご鑑賞の際にはその点を踏まえていただくと良いだろう。
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両作の共通点
鑑賞している間は夢中で気付きにくいが、主人公にはほとんどセリフがない。話さないということは、俳優としては表現の手段が減るということだ。
前作でマックスを演じたトム・ハーディと同様に、新作におけるフュリオサ役のアニャ・テイラー=ジョイもこの点は苦労したようで、インタビューの中で下記のように語っている。
今まで寡黙なキャラクターはいくつか演じてきたけれど、今回のフュリオサに関してはジョージ・ミラー監督が「顔でどういう感情を携えることができるか」ということに非常に厳しかった。荒野での生活だから、表情を漏らしてしまうことは時として死を意味する。そういう危険にさらされた状態で生きているから、目だけでの演技をする必要があった。使える演技ツールが「目」だけだったから女優としてはとても怖いことだった。
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主人公たちのみならず、そもそも両作はセリフが多いとは言えない。
それに加えて、カット数が多いという共通点も俳優たちを苦しめたようだ。「怒りのデス・ロード」におけるジョージ・ミラー監督は、キャストが一言話してはカメラを止め、また一言話してはカメラを止めるという撮影スタイル。
構図や絵コンテ、編集そして完成イメージが頭の中に完璧にあってこそできる芸当だが、俳優たちにとっては一つのシーンは最初から最後まで流れで演じて感覚を掴みたい。それが一言で区切られてしまうので、苦戦を強いられたとトム・ハーディとシャーリーズ・セロンは語っている。
『マッドマックス:フュリオサ』もまた、この細かいカットと編集で素晴らしい躍動感が生まれている。意識して観てみると面白いだろう。
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マッドマックスシリーズにおけるもう一つの主役的な存在と言えるのが、様々な種類の車だ。新作には145台もの車両が登場する。
ジョージ・ミラー監督は「それぞれの登場人物を象徴するような車両を作ること」非常にを重要視している。「車両は衣装や髪型、武器、そして彼らが持つあらゆる人工物と同じように、キャラクターの延長にある」と考えているからだ。
『マッドマックス:フュリオサ』でフュリオサの宿敵となる、クリス・ヘムズワースが演じたディメンタス将軍のキャラクターについては下記のように話している。
ディメンタス将軍は、物語のなかで車両を乗り換えるんだ。赤いディメンタスはチャリオット型のバイクに乗り、のちに燃料や戦士たちをより多く手に入れられるようになると、最終的には巨大なモンスタートラックに乗ることになる。そしてそれが彼のキャラクターになる。そしてフュリオサは最終的に、大きく進歩したウォー・タンクの製造を手伝うことになり、それが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場するウォー・タンクにつながるんだ。
両作の相違点
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冒頭述べたように、『マッドマックス:フュリオサ』は「怒りのデス・ロード」の裏設定を公式に蔵出しした趣があり、またフュリオサという1人の人間の人生にもフォーカスしているため、説明やドラマシーンの割合が増えている。
前作では全編に渡って暴力的なアクションが続くことからR15+指定となっていたが、「フュリオサ」ではドラマパートも挟まる関係かPG12指定。映画全体の尺で比較しても「怒りのデス・ロード」の120分に対し、「フュリオサ」は148分と約30分長くなった。
しかしアクションの割合が減ったことでその濃度が低くなったわけでは決してない。例えば「怒りのデス・ロード」で構想はあったものの実現しなかった「対空中戦」が『マッドマックス:フュリオサ』では実現しているのだ。
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ウォーリグ(タンクローリー)とバイク、飛行機にパラシュートまでもが乱戦を繰り広げる15分のシークエンスは、映画中盤におけるクライマックスである。
巨大な扇風機を背負ったバイクや水上スキーのような「砂上スキー」がパラシュートで飛び、パラグライダーなども用いながら上空から攻撃を仕掛けるのだ。同シリーズにおけるアクションに新たな引き出しを追加し、非常に見応えのある展開となっている。
このシーンの撮影にあたっては200人以上のスタントマンが関わっていたらしく、実写の撮影に強いこだわりを持つジョージ・ミラー監督がどのようにこれを撮影したのかも非常に気になるところだ。「フュリオサ」独自のアクションシーンとしてぜひ注目してほしい。
「怒りのデス・ロード」口述記録集
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前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、公開前から制作費の大幅超過やキャスト間の確執など映画の外側で耳目を集めたが、実際に企画から撮影・編集に公開に至るまで、数えきれないほどの壁を乗り越えて(時には運も味方につけて)きたことが口述記録集から読み取れる。
この本はマッドマックスシリーズの世界観の理解を大いに助けてくれるので非常におすすめだ。
アクション超大作のスタントマンから直々にアクション解説があるだけでも十分に読みごたえがあるが、それ以外にもトム・ハーディとシャーリーズ・セロンのスタントダブル同士が撮影で殴り合っている内に互いに好意を持ち結婚した話や、ウォーボーイズのイモータンへの崇拝にリアリティを出すために行われた集団ワークショップ、最終的にどちらのバージョンを世に出すかを決めるワーナー側との編集バトルなど、それが映画になるのではないかと思うほどのドラマが盛りだくさんである。
「怒りのデス・ロード」における様々な苦労が『マッドマックス:フュリオサ』でもあったのかもしれないということも容易に想像できるので、両作のファンという方にはぜひ手に取ってみていただきたい。
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![芦田央(DJ GANDHI)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50478232/profile_2c69014c11339dbd4d3ab8778297cbbc.png?width=600&crop=1:1,smart)