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A24の手で40年ぶりの復活『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』
1983年にハリウッドのパンテージ・シアターで催されたトーキング・ヘッズのLIVEの模様を、後のアカデミー賞作品『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミ監督が収めたドキュメンタリー映画、『ストップ・メイキング・センス』の4Kレストア版が公開された。
数年前にトーキング・ヘッズのフロントマン、デヴィッド・バーンのLIVE映画『アメリカン・ユートピア』(2020年)が注目を集めたばかりだが、40年も前の映画が4Kレストアされ、しかもその作業を行ったのが新進気鋭のA24だというのだから、これは凄いことだ。
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トーキング・ヘッズというバンドも『アメリカン・ユートピア』もご存知ないという方に、老婆心ながらご紹介したいのは、70年代後半にデビューし、まさに『ストップ・メイキング・センス』が公開された80年代に人気絶頂期を迎えていたトーキング・ヘッズの楽曲は、今なおさまざまな映画の場面で使用されているということ。
最近では『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』の冒頭、正体がばれてMJと逃走する場面の背景に「I Zimbra」という曲が流れている。これは『アメリカン・ユートピア』でも演奏された曲だ。
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また「This Must Be the Place」という曲は、マイケル・ダグラス主演の『ウォール街』『ウォール・ストリート』の両方で、エンディングテーマとして使用されている(『ウォール街』ではチャーリー・シーンが高級マンションに引っ越すシーンでも流れる)。
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また、ショーン・ペン演じる引きこもりのロックシンガーが、元ナチス親衛隊の男を亡き父に代わって探すロードムービー『きっとここが帰る場所』では、デヴィッド・バーンが本人役で出演しており「This Must Be the Place」を演奏するシーンもある。
ちなみに、この映画の原題は『This Must Be the Place』。トーキング・ヘッズの名曲にちなんだものだと伝えるためには、英語のままで良かったのでは…とも思うが、それはまた別の話。
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(C)2011 Indigo Film, Lucky Red, Medusa Film, ARP ,
France 2 Cinema, Element Pictures. All Rights reserved.
演奏シーンでは、垂直になって迫ってくる部屋にスタンドライトが置いてある。このスタンドライトがキーアイテムなのである。『ストップ・メイキング・センス』でも、デヴィッド・バーンがスタンドライトと印象的に戯れるシーンがあり、『きっとここが帰る場所』のセットもこれをオマージュしたのではないだろうか。
一方で、元になったデヴィッド・バーンの方はというと『恋愛準決勝戦』(1951年)のフレッド・アステアがコートラックを自在に操りながら踊るシーンを意識していたと語っている。
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そんな過去からの影響もうけつつ、後世にも大きな影響を及ぼした『ストップ・メイキング・センス』の映画化を最初に思いついたのは、監督のジョナサン・デミだ。
トーキング・ヘッズにとっても、脱ブライアン・イーノを図ってセルフプロデュースしたアルバム『スピーキング・イン・タングズ』のツアーの模様を映像として残したいと思っていた。そこへ、ヘッズ自身も『メルビンとハワード』などでお気に入りの映画監督の1人だった、ジョナサン・デミから企画が持ち込まれたのは素晴らしい邂逅となった。
出資者がほとんどおらず、製作費の大半をトーキング・ヘッズ自ら調達するという苦労の甲斐もあって、『ブレードランナー』(1982年)を終えたばかりの撮影監督ジョーダン・クローネンウェスがジョインし、3日間の公演と1回のリハーサルでカメラを回してできたのが本作という訳だ。
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自ら資金調達したが故の(C)表記
今回の4Kレストアにあたって、最も苦労したのがオリジナルのネガを見つけ出すことだったそうだ。当時の配給会社シネコムはすでに倒産しており、権利の所在も曖昧なまま放置されていたが、配給契約の規定でメンバーの元に突然、版権が戻ってきた。
「さあ4Kレストア作業を始めよう」と言いたいところだが、オリジナルのネガがない。すでに亡くなっていたジョナサン・デミ監督の家や配給会社、アーカイブされていた大学などに連絡を取るも成果なし。諦めかけていたが、最終的に無関係なはずのMGMの倉庫で発見された。このオリジナルネガを巡る舞台裏は下記の記事が詳しいので、ぜひご参考に。
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映画館で感じる4Kレストアされた映像と音は、やはり格別だ。
語るべき楽曲はたくさんあるが、あえて1つに絞るとするなら、LIVE終盤に披露される「Girlfriend Is Better」に注目していただきたい。この曲からデヴィッド・バーンが能の装束を元にして作らせた”ビッグスーツ”に着替えるため、分かりやすいだろう。
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注目してほしいというのは、『ストップ・メイキング・センス』という映画のタイトルがこの曲の歌詞から引用されているからだ。
As we get older and stop making sense.
You won't find her waiting long.
Stop making sense. Stop making sense.
Stop making sense, making sense.
ポスターにも使われる象徴的なスーツに身を包み、映画のタイトルともなったセンテンスを歌い上げる様は、終止興奮しきりなこの映画の中においてもひときわ熱くなるシークエンスの一つである。
ちなみにいくつか作られたこの4Kレストアの予告編だが、現在のデヴィッド・バーンがビッグスーツをクリーニング屋からピックアップするバージョンが往年のファンにはたまらない映像なので、ご紹介して終わりとしたい。
40年経った今なお現代性を感じるという、先見性に満ちたLIVE映画をぜひ。
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