『世界は『関係』でできている』

カルロ・ロヴェッリの専門、ループ量子重力理論の本。

 時間をメインテーマに置いていた前作に対して、今回は自らの理論が描く世界とはどんなものかを語っていた印象でした。

 ロヴェッリも『量子力学の奥深くに隠されているもの』のキャロルも、一般向けの物理学書ということでとっつきやすいようにかなり工夫してくださってるのを感じるものの相変わらず難解で、目の粗いザルで濾し取ったような理解で恐縮ですが、話のメインは「世界とは何かと何かの間に起きる物理現象である」ということの解説でした。
 世界とは物理現象を観測する自分との三者の「関係」であり、同じものどうしの物理現象を他の人が観測すればそれはまた近似の別の関係=世界になる。そうして出来事が散在する世界の様子が、関係から成り立つ世界の姿ということになります。

 ロヴェッリの言うことを理解するのには色の例えがわかりやすくて、物を見て色を感じるというのは物と自分の間の物理現象ですが、見ている色を他人と比較できたとしたらその色はひとりひとり違う。更に言えば光によって「青に見えるもの」はあっても、光がなくても青い「真に青いもの」は存在しない。同じように物理現象が形作る世界にも真に確か(普遍的)な世界というものはないというもはや哲学のようなお話。日本人は色即是空みたいな言葉で何となく受け入れている世界をこうして物理学的に説明されるとまた味わい深いです。

 今回も物理学の歴史のような解説はなく、代わりに量子力学の黎明期に若い科学者たちがどんな風に考え理論を確立していったかが小説のように鮮やかに綴られています。これがまた面白くて、行列の計算に大いに苦戦し力尽きたハイゼンベルクたちから相談を持ちかけられためちゃめちゃ頭が切れて尊大なパウリが「実際、この計算は難しすぎるねえ…… きみたちには」と言って、ものの数週間でそれを解いてしまったくだりとかもうエンタメ的なカッコよさがあります。

 私たちが見て感じている世界があくまで相対的と言われると急に頼りなく感じますが、アインシュタインの相対性理論と量子力学の統合ってこういうこと?と妙に納得してしまう部分もあります。ループ量子重力理論は物理学の見果てぬ夢を現実にするんでしょうかね。


 余談ですが、寺山修司は「ホントは人間なしでも存在するが、ウソは人間なしでは、決して存在しないから」ウソの方が人間的真実だと言っていましたが、「ホント」もそれぞれの人間と関係しあうものの間にだけ存在するものなら世界はすべて人間的真実なのかしら。

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