29 PSA鑑定
はじめに:カードの取引の現状とそこから見えるもの
日本で誕生し、今や世界の多くの人々が愛している「ポケモンカード」ですが、高価なものになると何千万円という値段が付いたり、1億円にも及ぶ価格で取引されることも稀にあるという話を聞いたことがあります。
200円そこそこで購入した20年前ほど前のカードが、高価なものになる理由には、いくつかの条件があります。「少ない・珍しい」「きれい・状態が良い」「欲しい人がたくさんいる」「古い・もう無い」などがそうした条件の一つとなるでしょう。では、国境を越えて取引されている現状において、適正価格をいかに判断して売買されているのでしょうか。言い換えると何を信頼して取引しているのでしょうか。
PSA鑑定とは
その答えの有力なものが、今日のタイトルにある「PSA鑑定」なのです。PSA鑑定とは、Professional Sports Authenticatorの頭文字をとった、真贋鑑定(しんがんかんてい)を行う会社です。鑑定を行う会社は身近なところにたくさんあります。貴金属のリサイクルショップや骨とう品屋さん、質屋さん、などがそうした商売になります。ただし、「PSA」は世界最大にして最も多くの利用者が信頼を置いている鑑定会社なのです。ビジネスの柱は、真贋鑑定とグレーディングサービスです。
両方とも聞きなれない難しい言葉ですが、要するにものすごく細かく正確に鑑定して、状態や希少性に照らし合わせてグレード(ランク)をつけるという商売をしているということです。
PSA鑑定のグレーディングは10段階
PSAのグレーディングは、状態を10段階で評価します。そして、鑑定後には、現在の状態を維持するために特別なケースで保管してくれます。皆さんも有名ユーチューバーのチャンネルでアクリル製のしっかりとしたケースに入ったPSA鑑定済みのトレーディングカードを見たことがあるかと思います。つまり、このPSA鑑定で高評価を得たということは、絶対的な信頼が伴ったカードであり、それに基づいて示されたカードの価値は、信頼ができるので安心して売り買いを行えるということになるのです。
一言で言えば、カードの売買における審判のような、選手とは別の第三者の立場から公平に正しく判断している人といった感じの人たちと言えます。
いかにこの信頼が重要かというと、PSAの鑑定がカードに加わることで、さらに価値が高まり、未鑑定のものよりも高額で取引されることもあるほどです。これは、政府や国が発行する紙幣・貨幣に対する信頼がただの紙、ただの金属に絶対的な価値を生み出している構造に似ているものです。また、アートビジネスの構造とも似ており、ゴッホやピカソ、バンクシーの作品を高額でやり取りしたり、投資目的として所有したりする行動にも通ずるものがあります。
カード人気とそこから見える人々の心理
社会的な現象から見た時の話をすると、グレードの高いカードをめぐる過熱ぶりは、様々な問題にもなっています。トレーディングカードを取り扱う専門店をねらい、高額のカードを不正に入手するといった事件もその一つです。また、学校現場では、カードのやり取りをめぐり人間関係が崩壊してしまった子どもたちの事例もあるほどです。こうした現象は、数十年前のビックリマンシールやエアマックスと呼ばれるバスケットシューズをめぐっても発生しています。ただし、インターネットの普及も手伝って国際的に加熱している分、価格や取引量が増しています。子どもや愛好家の遊びだったトレーディングカードが立派な投資の対象になったり、人間心理をうまく利用した大きな市場となったりしているのです。
金融教育の要「希少性」
こうした事象を金融教育の視点から見ると「希少性」を学ぶ大切な出来事であると考えることができます。今こそ、教育機関は金融教育をより促進させ、こうした物の価値に対する正しい理解と行動についてより実践的に、より倫理的に学ぶ機会を増やしていくべきだと思うのです。
物には限りがあり、需要と供給のバランスの中でモノの値段が定まっていくという基本的原理を学ぶだけではなく、むしろ手に入らない状況や物の有限性を受け入れる精神やそのことに理解を示すことのできる心を養う必要があるのではないでしょうか。
「あればあるだけ欲しい」「欲しいときに欲しいものが手に入る」「欲しいものがないほどものにあふれている」といった状況が散見される社会状況の中で、今こそ正しい金銭感覚や経済感覚を磨く必要があるように思います。