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自由と評価の狭間でどう生きるか ー現代芸術家-宮島達男に聞く、アートの本質

-----プロフィール-----
宮島 達男(みやじま たつお)氏
1986年 東京芸術大学大学院修了。1988年ヴェネツィア・ビエンナーレ、新人部門に招待され、デジタル数字の作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催。世界30カ国250か所以上で発表している。1993年ジュネーブ大学コンペティション優勝。1998年 第5回日本現代芸術振興賞受賞。1998年 ロンドン・インスティチュート名誉博士。代表作に「メガ・デス」など。また、被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう活動、「時の蘇生」柿の木プロジェクトも推進している。
(日本藝術財団HPより抜粋)
(上記写真は東北芸術大学 web magazine GGより抜粋)

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アートの本質ー創造と評価の狭間で

___本日はお忙しい中ありがとうございます。
 早速お伺いしたいのは、アートの最終的な役割についてです。
 アートには、作品を通じて制作者のメッセージを伝える役割がある一方で、それを見る人に様々な想像を掻き立てる役割もあると思います。
 ある特定のメッセージを届けるためのアートが、見る人独自の解釈を許す役割も併せ持つところにズレを感じるときがあるのですが、アートの本質的な役割とはいかなるものなのでしょうか。

 いきなりトップギアですね(笑)。言いたいことを伝えるツールとしてのアート。この考え方は間違いではないですが、もしそうだとするとアートは商品説明のためのイラストのようなものになってしまいます。

 むしろ、アートはもっと多様な受け取り方ができて、そして様々なメッセージを感じることのできるツールなのです。ある意味、山や川といった自然に近い。例えば海を見た時、潮や風の流れ、その大きさや豊かさを感じると思います。そしてその受け取り方というのは、人によって、また同じ人でも見る時々によって千差万別なものですよね。

 自然とアートはこの中立的な点で似ています。ただしアートには作者の意図も残っている訳です。しかしそれは押し付けがましくなく広がりがある受け取り方ができるようにつくらなければならない。だからこそ良質なアート作品には、どのような人でも想像を掻き立てられるし色々な思いを乗っけられる。もっというと全人格的な作品、つまり背景や印象、歴史性や価値観といった様々な要素が含意され、見る人がそこから自由にそして多様に受け取ることができるアート、これが良いアート作品という訳です。だからこそ本当に良いアートは自然と同じように長く愛されるモノなのです。

___見る人の想像力を多様に掻き立てるところがアートにおいて重要だということでしたが、そうなると芸術は大衆迎合的になる危険性があります。
しかし、その一方でアートをはじめクリエーションとは自分の価値観やメッセージを表現するための手段です。
 その観点から考えると、芸術家はアートで生計を立てなければならない点で非常に曖昧な立場に置かれていると感じるのですが、宮島さんは制作段階において人からの評価を考慮されますか?

 これも非常に難しい質問ですが、現実的には評価を気にしていてはアートはつくれないんですね。なぜなら、評価や流行りというのは相対的で時代によって変化するからです。例えばゴッホは現在では世界的に評価されるアーティストですが、評価され始めたのは亡くなった後でした。相対的で不安定な評価や流行りを気にしていては自分のつくりたいものはつくれなくなってしまう訳です。

 学生から「どうすれば宮島さんのように売れるようになれますか」とよく質問されますが、私がアートで食べていくことができたのは全くの偶然なんです。自分がつくりたい作品をつくってそれが評価されるというのは偶然の為せる技、稀有なことです。芸術家というお仕事を始めた時、食べられなくなっても仕方ないと思っていました。それは当然のことだと。つくりたい作品をつくっていては商業的に成功することはないと思っていたからです。商業的に成功するには今の評価や流行りに合わせなければいけない。でもそれらは相対的なもので自分が作りたいモノを作ることとは別の尺度で考えなければならない。

 だから、もし自分のつくりたい作品をつくっていきたいならアートで食べていくことを諦めて、別の稼ぎ口を用意してアーティストとしての自分に投資するというのが健康的な在り方だと思います。特に日本ではアートのような挑戦的な活動を評価する土壌が育っていないし、比較的その基盤があるヨーロッパでもやはりアートで食べられない人はとても多いですからね。

作品

(宮島達男さんの作品-東京現代美術館にて撮影)


これからのアートのためにー解決案と注意点

___アートとビジネスの両立は難しいとのことですが、今までになかったような新しい考え方や価値観を伝えるというのはとても重要なことだと思います。今後アートのような活動を育てる土壌をどのようにつくっていけばよいのでしょうか。

 新しいことやチャレンジしている人に応援する意味で投資をする人たちが多く現れることが理想的です。しかし、注意すべき点が2点あります。

 まず1つ目が、国家の政策としてアート支援を行うと権力が集中しているせいで妥協的な運営になってしまう点です。例えばフランスやオランダはこの典型例といえます。特に、オランダではアーティストサポートとして国がアート作品を買い取る、という政策をした結果世界中からアーティストが集まりました。しかし彼らは国から貰ったお金を飲酒やドラッグに費やし、さらに買い取ってくれるという期待から生半可な作品しか生まれなかった。結局、このプロジェクトは破綻してしまいました。アートに対する公的支援の拡充を期待する向きもありますが、それで必ずしも問題が解決するとは限らないわけです。

 2つ目に注意すべきことは、過大評価に繋がりやすいところです。例えばアメリカのアートシーンは個人投資家などが自分の好みに従ってアーティストを応援することで出来上がった訳ですが、ややもすればポピュリズムに傾いてしまう危険性もあります。すなわち、誰かの投資や評価が呼び水になって、あるアーティストに投資が集中するという事態がおきかねない。沢山のお金が集中したけれども、後で振り返るとあまり価値のない作品だったということが結構起こっているんですね。

他人の評価と自由ー可能性と無力感の狭間で

___今まで他者の評価とアートとの関係性を軸にお話を伺ってきましたが、これからは少し視点を変えて質問させていただきます。
 まず、他人の評価という点において、今はSNSやネットを通じて他人の評価や意見が見えやすくなり、だからこそそれらに左右されてしまい「やりたいことができない」若者も多いと思います。
 私たち若い世代はこれからどのように情報と付き合っていけば良いのでしょうか。

 情報を一旦遮断してみるのが良いと思います。先日、ある知的障害者施設に行ったのですが、その施設はなるべく障害者の方々のやりたいことを阻害しないように自由な空間や時間をつくるという思いのもと運営されていました。そこでは彼らは忖度をしないし、やりたくないことはやらない。そんな自由な空間が私は心地良かった。
 
 「コミュニケーションをとらなければいけない」とか「‥の仕事の人は〜できないといけない」とか「あらねばならない」理論は世の中に溢れているけど、自分のオリジナリティを大事にするならば、全くそんなもの重要ではないということを改めて痛感しましたね。というかオリジナリティ自体もさほど重要ではないんです。オリジナリティを追求すると「〇〇と比べて私には〜できない」というような比較に陥ってしまいますからね。自分は自分で他人は他人なんです。そもそも比べられるものではないんです。結局、生きていればなんでもいいんです。

___「あらねばならない」理論から自由に行動できる空間である点で、その障害者施設には学ぶところが非常に多いと思います。
 そう考えると、自由度が非常に高い芸術であるアール・ブリュット*が日本であまり評価を受けていないことに疑問を感じます。
(注:アール・ブリュット‥伝統や流行・教育などに左右されず、自身の内側からわきあがる衝動のままに表現した芸術。特に障害者や子ども・素人の作品を指す。)
 
 これから評価されていくと思います。例えば滋賀県立博物館はアール・ブリュットの展覧会を企画していて、日本におけるアール・ブリュットの拠点になろうと動いています。

 そもそも芸術家にはADHDや知的障害ではないかと思われるような方々が多いんです。それは別に芸術家に限ったわけではありません。障害者・健常者のように区別していますが、本質的にはみんなどこかおかしいんです。だから区別やカテゴリーは関係ないんです。どっちが何かに優れていたりすることもありません。

___科学のせいで、統計のせいで、人をカテゴライズしその集団の平均を当たり前だと思う癖があるのだと思います。その結果、他人を個人としてではなく集団の平均とみなしてしまう。そのくせ、競争教育のせいで優劣をつけたがる。全員が特殊で特別なのに、人の魅力であったり性格や能力は一次元的・二次元的なものじゃなくてもっと多次元的なもので比べられないのに、比べて優劣をつけてしまう。私たちももっと意識的になる必要があると痛感しました。
 本当にありがとうございました。

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(インタビュー中の様子)

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『時の海-東北』インタビュー 

こちらの記事も是非ご一読ください。宮島達男さんの作品『時の海』のワークショップも開催される予定です。是非ご参加ください。

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