【インタビュー】斎藤統さん 文化の狭間で見た、「新しさ」の源泉 ー世界を駆けたヨウジヤマモトに学ぶ
-----プロフィール-----
斎藤 統(さいとう おさむ)氏
1949年生まれ。73年、リヨン大学に留学。78年、日仏間の情報交換を主業務とするサブリンヌ社を設立。81年、ヨウジヨーロッパ社社長に就任。93年、AECCを設立。エグジル社、ジョセフ・ジャポン社、カサボ社社長を歴任後、2007年から3年間イッセイミヤケ・ヨーロッパ社社長を務める。08年フランス芸術文化勲章シュバリエ受章。
(SOW.TOKYOのプロフィールより抜粋)
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文化の壁を飛び越えろー「ヨウジヤマモト」2つのアプローチ
___本日はお忙しい中ありがとうございます。
齊藤さんは、日本発のブランドである「ヨウジヤマモト」を国際展開された経験がおありだとうかがっています。
展開先の生活や文化、価値観は日本のものとは大きく違っていたと思いますが、その点はどのように克服されましたか。
文化間の違いを克服するには、その時代の流れに乗ることが重要になります。例えばヨウジヤマモトは、次世代のデザイナーを求めていた当時のフランスファッション界に切り込んでいくことで受け入れられました。つまり、時代のニーズに合っていたということです。これが成功の大きな要因と言えるでしょう。
___なるほど。デザイン自体の魅力も大切ですが、受け入れられるためには時代の要求も無視できないということですね。
そうですね。ただ、実はそれだけでは不十分なんですよ。私はこれに加えて、文化の多様性を意識してきました。世界にはさまざまな文化があり、それぞれ重視しているものが違いますからね。
大切なのは、自分の文化を絶対視しないことです。文化は長い年月をかけて生活に根ざしていったものですから、それ相応の尊重が必要でしょう。
___他文化を大切にし、相対的に見る視点は今まさに求められていますね。その視点はビジネス面においても重要だということがよくわかりました。
異文化にもまれる中でー革新を生み出す「違和感」
___他の文化を尊重しそれに適合していく必要がある一方で、ヨウジヤマモトとしてのこだわりもあったと思います。文化が異なっていても変わらない、ヨウジヤマモトらしさとはどこにあったのでしょうか。
アシンメトリック、つまり非対称性です。当時のフランスでは体にぴったり密着した服が主流でした。もちろん左右対称の。そういう文化圏にヨウジヤマモトは非対称な服をもっていきました。
当然最初は叩かれましたし、日本人差別もありました。「この前まで着物を着てた人達でしょ」ってね(笑)。しかしヨーロッパには今までなかったデザインをぶつけたからこそ、それが強みにも変わっていきました。着物文化であったからこその良質な素材と、今までにない新しいデザイン。この二つが加わった結果、日本のデザイナーに門戸が開かれたわけです。
___フランスには新しいモノや良いモノを評価していこうという考え方が根底にあるように感じました。日本とは少し違いますね。
おっしゃる通り、フランスでは異質なものを受け入れる土壌があるように感じます。最初は批判しても、良いと思えばすぐに意見を変えることができる。一方で日本は意見を変えることが少ない。一貫性があるともいえますが、見方を変えると頑固で新しいモノに開かれにくいともいえます。
___なるほど...では、日本が「意見を変える」べきところは例えばどのようなところにあるとお考えですか?
会社での上下関係ですかね。これについては、ヨウジヤマモトを辞めて日本で働き始めた時に違和感をいくつか感じました。
まず、女性社員がお茶汲みをする慣習があったことです。「君の仕事はお茶を入れることではないだろう」と言って私の職場ではやめさせました。今は違うかもしれませんが、当時のショックは忘れられませんね。
あとは、会社での呼び方です。日本では社員がみんな私のことを「社長」と呼ぶんですね。フランスでは部下も私のことを「オサム」と下の名前で呼んでいましたから驚きました。限られた範囲でしか通用しない肩書きで呼ばれるのは私にとって違和感のあることでした。
___肩書きで呼ぶことは当たり前だと思っていましたが、確かに「社長」や「部長」ってその会社の中だけでしか通用しませんね。
そうなんです。そういう違和感に気づくためにも会社や職業を変えることは重要だと思っています。それも日本ではなかなか受け入れづらいみたいですが。とにかく、自分の価値観が絶対だとは思い込まないで欲しいです。
___場所を変えることで「当たり前」の中に「違和感」を見つけること。そして自分の価値観にこだわりすぎず、柔軟な姿勢でいること。どちらも今の私たちにとって欠かせないことですね。
「差別化」で、次の次元へー文化とビジネスの両立
___最後にお伺いしたいのはクリエーションとビジネスをどう両立していくか、ということです。当然ですが、自分の思いをモノで訴える「クリエーション」と、消費者優先の「ビジネス」とでは方向性が異なります。
その中で、クリエーションがビジネスありきにならずに、新しい文化が発展していく土壌を整えるにはどうすればよいでしょうか。
たしかに、一見すると両立は難しそうですよね。ですが、「差別化」によってビジネスとクリエーションを両立させられることがあるんです。
「差別化」とは、簡単に言うと他者との身分や立場の違いを誇示することです。人間、特に富裕層の「差別化」への欲求こそが、文化を発展させてきたのです。「お金は払うから他とは違う新しいモノをつくってくれ」というふうにね。
この差別化の前提にあるのは、同じ「モノ」でも、人が違えば見出す価値やその程度が変わってくるということです。極端な例では、アニメを見るのを邪魔されて親を殺したというようなニュースを見たことがあります。理解不能ではあるけれど、その人にとってそれほどアニメが大切だったのではないでしょうか。
人によって「差別化」への欲求は異なる。だからこそ「差別化」によって文化とビジネスの両立ができる可能性があります。ぜひこういう点を考慮にいれながら、若い世代から次の世界を引っ張っていってください。