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ビジネスケアラーとは? 介護と仕事の両立で苦しまないために知っておきたいこと

昨今、「ビジネスケアラー」という言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか?
「ビジネスケアラー」とはなにか、日本の現状を踏まえて解説していきます。

※本記事は『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』を一部抜粋・再編集しています。


ビジネスケアラーとは

迫りくる2025年問題

介護を必要とする人(要介護者)の割合は、75歳以上になると急速に増えます。
人口ボリュームの大きい団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者となるのが2025年。日本においては2025年が、介護問題爆発の年となります(2025年問題)
この2025年以降で注目されるのが、「ビジネスケアラー」の存在です。

急激に増加するビジネスケアラー

「ビジネスケアラー」とは、「働きながら介護をする人」「仕事と介護を両立している人」という意味です。

ビジネスケアラー+予備軍 年代別発現率

これは、介護と仕事の両立支援をおこなう株式会社リクシスの独自調査(サンプルサイズ3万878人)をベースとした、「現在、仕事と介護の両立をしているビジネスケアラー」と、「いつ介護が始まってもおかしくないと想定されるビジネスケアラーの予備軍」に関する最新データです。

現在進行形のビジネスケアラーだけに注目すれば、すでに45〜49歳で20人に1人、50〜54歳では8人に1人が当事者です。
経済産業省は、2023年3月、2030年には家族介護者が833万人にのぼり、さらには、ビジネスケアラーが318万人になるとの予測を発表しています。

より少ない人数での介護が当たり前に

ビジネスケアラー人口の増加だけが問題ではありません。
ビジネスケアラーの中心となる現代の40〜50代は、過去の40〜50代とは異なり、未婚率も高く、兄弟姉妹が少ない傾向にあるため、昔よりも介護の負担を親族で分散しにくいという特徴があります。
さらに専業主婦が減っていることも、この問題に拍車をかけています。

これからは、仕事をしながらの介護を、昔よりもずっと少ない人数で担当する時代になると言えます。

介護と仕事の両立によくある誤解

よくある誤解① 育児も介護も同じようなもの

介護と仕事の両立において「育児も介護も同じようなもの」と考えていませんか? これは完全に間違いです。育児と介護は似ているどころか、むしろ正反対とも言えるほど異なっています。

まず介護は自分として経験したことがないため、全体を把握するヒントを持っていません。育児は自分が受けていた経験があり、全体を把握しやすいでしょう。

また、育児は妊娠の期間を経て準備をする時間がありますが、介護はある日突然始まるものなので、仕事との両立を考える時間がありません。そのうえ、情報も不足していることが多いです。周囲や職場に相談することも、育児に比べるとハードルが高いかもしれません。

さらに、育児は辛いながらも、子どもの成長に合わせて負担は軽くなっていきますし、モチベーションの維持もそこまで難しくないのではないでしょうか。対して介護は終わりが見えないですし、辛くなる一方なので、モチベーションを保つことも難しいでしょう。

このように、育児と介護はまったく違うので、それぞれ異なる戦略を持つ必要があります。

よくある誤解② 始まってからネットで調べればOK

自分はいつか介護当事者になると認識していても、「始まってから調べればいい」と思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、これはとても危険な状態です。

インターネットは、知識のない人に対して知識を授けるツールではありません。
そもそも言葉を知らなければ、検索をすることも、質問をすることもできないからです。

「介護」についてある程度知識を備えておかないと、いざ介護が始まるとなったときに、
・なんと検索すればほしい情報が出てくるのか
・今知っておかないと後々困ることはないか
・情報の信頼性はあるのか

などがわからず、必要な情報を必要な時に手に入れることができない可能性が高くなってしまいます。

例えば、認知症になった人の資産は凍結されるという制度があります。
父親が認知症になった場合、父親の銀行口座は凍結され、そこから生活費はもちろん、医療・介護の費用も引きおろせなくなります。土地建物の権利者がその父親だった場合も、それを売却したりすることができなくなります。
こうしたことを、実際に親が認知症になってから知っても遅いのです。

介護についての知識があれば、介護の負担はかなり減らすことが可能です。
介護が始まってからではなく、介護が始まるまでに、ある程度知識を身につけておきましょう。

知っておくべきビジネスケアラーの新常識

① 負担額は平均月7万〜8万円、想定している期間は平均14年

介護には相当なお金がかかり、仮に資産が十分にあったとしても、不安は残ります。介護にかかるお金(介護保険でカバーされない自己負担部分)をデータでみてみると、

初期費用(バリアフリー化や介護ベッド、緊急対応の交通費や宿泊費など):平均80万〜90万円程度。
毎月かかる費用(自己負担):平均7万〜8万円。

そして、介護をしている人々が実際に想定している介護期間の平均は、169.4か月(14 年1か月)
つまり、毎月の実質的な費用(自己負担)となる平均7万〜8万円が、169.4か月間かかり続けることを想定している人が多いということです。

ここから介護のランニングコストは、合計で約1186万〜1355万円となります。初期費用も考えれば、1266万〜1445万円の費用です。あくまでこれは平均であって、運が悪ければもっとかかることも考えておかなくてはなりません。
また、両親同時に介護が必要になるケースも多数あり、その場合は、単純に2倍とはならないものの、2000万円以上の準備が必要になると考えられます。

親の介護費用は、親の年金や預貯金でやりくりするのが基本ですが、親の介護のために子どもがお金を持ち出すことは、まず避けられません。
そんなとき、自分が介護で仕事を辞めていたら、持ち出すお金もありません。なんとか自分の手で介護を乗り切れたとしても、いざ自分自身に介護が必要になった場合に、自分のための貯蓄が不十分になる可能性もあります。

② 仕事を辞めたとしても、介護の負担は逆に増える

介護を理由に仕事を辞めた人の約70%が、経済的・肉体的・精神的な負担は「かえって増えた」と回答しています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査』、平成24年度厚生労働省委託調査結果概要より

仕事を辞めれば収入が途絶えるので、経済的な不安を抱えるのは避けられません。物価の高騰もあり、今後さらに金銭的な負担が大きくなることを鑑みれば、さらに負担は増すでしょう。
また仕事を辞めて介護を自分の手で行うと決めた場合、肉体的な負担が増すのも当然です。こうして金銭的にも肉体的にも追い詰められた結果として、精神的にも厳しくなっていきます。
介護を理由としてメンタルヘルス不調を起こす人は、約25%(4人に1人)にもなるというデータもあります。

③ 同居すると受けられない介護サービスも

同居をしている健康な家族がいる場合、生活援助サービス(掃除、洗濯、買い物、調理、病院への付き添いなど)が、介護保険では原則として使えなくなります
介護保険内であれば1日あたり数百円〜1000円程度で利用できる生活援助サービスが受けられなくなるだけでも、介護の負担は大きく上がってしまいます。

同居する場合は、生活援助サービスが介護保険では使えなくなること、特別養護老人ホーム(公的で安価な老人ホーム)に入りにくくなることなど、大きすぎるデメリットを覚悟しておくことが大事です。

④ 離職する人は介護に関する知識不足

介護によって仕事を辞めてしまう人は、どれほど介護の知識を持って、仕事を辞める決断をしているのでしょうか?
毎日新聞の報道を見てみると…

介護を理由に正社員から離職した人に「離職直前に介護と仕事の両立について誰かに相談しましたか」と聞いたところ、「誰にも相談しなかった」が47.8%に上ることがみずほ情報総研(東京)の調査で分かった。(中略)
離職の理由(複数回答)は「体力的に難しい」が39.6%で最多。「介護は先が読めず見通しが困難」が31.6%、「自分以外に介護を担う家族がいなかった」の29.3%が続いた。
あれば仕事を続けられたと思う支援策(複数回答)は、「介護休業を取りやすくする」27.0%、「上司や人事部門の理解と支援」25.5%、「有給休暇を取りやすくする」24.3%、「残業が少ない」21.7%などが挙がった。

出典:毎日新聞『介護離職「相談せず」48% 決断前の情報提供が課題』2017/5/20

ここで離職の理由とされていることは、介護サービスに関する知識があれば、かなりの程度解決できてしまうことです。
要するに、介護で離職をしてしまう人は、介護サービスに関する基本的な知識が不足していると考えられます。

どのような介護サービスが、いつ、いくらで利用できるのかを知らないと、「体力的に厳しい」「自分以外に介護を担う家族がいなかった」といった理由で、仕事を辞めてしまうのです。

別の調査では、自治体(市区町村)の介護窓口(地域包括支援センターなど)に介護の相談をしている介護者は20%にも満たない状況であることがわかっています。つまり、8割を超える介護の素人たちが、介護のプロに相談をしていません

しかし実は、自治体にこそ介護のおトク情報が集約されています。自治体ならではの各種介護サービスについての情報や介護状態が悪化しないための予防支援などがあり、そうした情報は、自治体の介護窓口を訪れないとなかなかわかりません。

また、どこの自治体にも、「地域包括支援センター」という介護や医療福祉について相談できる総合相談窓口があります。だいたい人口2〜3万人に1か所(一般的に中学校区域)程度設置されています。
自治体の介護窓口だけでなく、地域包括支援センターにも足を運んでみることも強くおすすめします。

⑤ 身体介護をしなければ仕事と両立できる可能性が高まる

介護を理由に退職する人と、そうでない人の違いは、親の要介護度(公式に認定される介護を必要とする度合い・レベル)が高いか、低いかではありません。
その決定的な分かれ道となっているのは、身体介護(入浴介助、排泄介助、食事介助)と家事を、自分で担っているか、それとも介護サービス事業者(または自分以外の親族)に頼っているかです。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
『仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究』より

特に介護をするうえで頻度の高い4つの作業の担い手について、ビジネスケアラーと介護離職者別のデータをみると、仕事と介護を両立できているビジネスケアラーは、身体介護や家事を自分でやっていないことがわかります。

介護離職や極端なパフォーマンス低下を避けるために本当に大事なのは、介護をするうえで頻度が高く、負担の大きい身体介護や家事は、できるだけ介護のプロに任せることです。
そして、作業頻度の低い緊急時対応や金銭管理といった部分、すなわち介護のマネジメントに集中するスタイルを作ることが重要です。

⑥ 介護休業を長期でとるのはおすすめしない

介護のために休んだり(介護休業・介護休暇)、残業を拒否できたり(残業免除)、また、そうした行為によって不当に扱われない(介護ハラスメント防止)ということは、日本の法律で決まっています。

もちろん、法定の制度を理解して、それを上手に活用していくことは、仕事と介護の両立をするうえで大切なことです。
ただし、ここでどうしても注意しておきたいことがあります。それは、法定では対象1人につき3回まで、通算で93日まで認められている介護休業の実際の使い方です。

1回で93日分休んでしまうことは避けたほうがいいでしょう。なぜかというと、心理的にも実務的にも職場に復帰しにくくなり、かえって介護離職のリスクが高くなるかもしれないからです。

介護休業をとる場合は1回でとらずに3回に分けて、介護初期のパニック期やアクシデントが起きてその対応に時間がかかりそうなときにとるようにすることをおすすめします。介護のめどがついたとはいえ、復帰してからも、介護のために再び休む必要が出てくることもありえるからです。

ただ、そもそも「介護休業をとりづらい」と感じているビジネスケアラーも多いかもしれません。
介護休業制度、介護休暇制度、介護時短制度が、実際にどれくらい利用されているのかに関する、株式会社リクシスの独自データを見てみましょう(サンプルサイズ2555人)。

企業の「介護支援制度」に対するビジネスケアラーの認知度・利用率

この分析から明らかなのは、大多数のビジネスケアラーは、介護休業制度などの存在は正しく認識してはいるものの、それを利用していないという事実です。
その理由は、介護のためのお金が稼げなくなることだけでなく、職場の理解が得られないことや、評価が下げられてしまう恐怖など、さまざまです。

いざというときには休みやすい職場である必要はあるでしょうが、実際のビジネスケアラーたちが求めているのは、休みやすさではなく、とにかく仕事に穴を開けないで介護も成功させることなのです。

また、平日平均2時間以上、休日平均5時間以上を介護のために使ってしまう人は、介護離職をするというデータもあります。

「休みやすい職場」もたしかに大切なことですが、「仕事を休まずに、介護を行っていける具体的な方法」を情報として得られる環境が、ビジネスケアラーにとって重要なのです。
午前休や定時退社などを組み合わせつつ、どうしても休む必要があるときは、長期の介護休業ではなく、できるだけ短期に、介護休暇や有給休暇などで対応していくことを考えてください。

介護はある日突然始まる

介護は、ある日いきなり、ほとんど無知の状態から始まります。

今この瞬間に、あなたの携帯に電話がかかってきたとします。
「お母さまが倒れました。これから緊急手術になります。手術が成功しても、身体には麻痺が残り、介護が必要になるかもしれません……」

さて、あなたはどうしますか?

『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』は、将来ビジネスケアラーとなる予備軍の方が仕事と介護をうまく両立させ、パフォーマンス低下および介護離職のリスクを下げるためのノウハウ・指針を提示することを目的として執筆されています。

ビジネスケアラー予備軍の方はもちろん、経営者、管理職、人事担当の方の参考にもなる1冊です。


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