【衆院選】海外出張中は投票できないんだって
第50回衆議院議員総選挙が2024年10月27日に行われる。
僕は9月半ばから11月初めまでアフリカはウガンダで出張中だ。さてどうしようと思って調べたら、ショッキングなことが分かった。
僕は今回、投票できないのだ。どうやっても。
海外出張は選挙制度のエアポケット
総務省ウェブサイトの「当日投票に行けない方へ」というページには、当日投票ができない人のために、三つの方法が記載されている。
①は期日前投票だ。今回は10/16-26で、出張期間中である。
②は不在者投票。長期出張などの場合、自分の名簿登録地以外の市区町村でも投票できる仕組みだが、滞在地が国内に限られるため、当てはまらない。
③は在外選挙制度で、海外在住の人が現地から直接投票できる。申請方法には二種類ある。日本で出発前に申請する方法(出国前申請)と海外での居住後に申請する在外公館申請だが、どちらも僕の場合は難しい。
まず、僕は開発コンサルタントと呼ばれるしごとをしている。発展途上国でプロジェクトを実施するしごとで、形態は様々だけれど、僕の場合は、政府事業で日本と海外(ずっとウガンダだ)を1〜2ヶ月単位で行き来している。
数ヶ月なので住む家は日本にあるし、住民票もそのままだ。要は出張である。
ここ数年は年の半分ほどアフリカにいるが、ホテル暮らしだし、別のプロジェクトに移動すると(業界用語で「スライド」という)ホテルも変わる場合が多い。
出国前申請の場合は海外に転出する転出届が必要だが、家が日本にあるので、転出届は出せない。また、在外公館申請には、最低でも3ヶ月間の居住が必要で、出張期間はそれより短い場合がほとんどだ。
何ヶ月も前から選挙日程が決まっていたら、その日に合わせて帰国することも考えられる(それにも大変な調整が必要になる)が、石破茂首相が今回の選挙を正式に決めたのは、首相に就任した10月1日だった。
通常、国内出張で名簿登録地にいない人は「不在者投票」をする。だから「海外で不在者投票ができないか」も調べた。
これは「特定国外派遣組織」に属している人ならできるそうだ。ただし、特定国外派遣組織とは「法律の規定に基づき国外に派遣される組織」を指す。例えば、イラクに派遣された時の自衛隊がこれに当たる。
僕は、日本政府の公共事業で派遣されているが、派遣自体が法律の規定に基づいているわけではなく、これも該当しない。
結論として、僕に限らず、海外出張と投票期間が重なってしまった人は、選挙自体に参加できないのである。海外出張は選挙制度のエアポケットなのだ。
政治に参加できないこわさ
ここからは自分の話だ。
以前は、政治にあまり関心がなかった。
発展途上国で仕事しているし、社会や国際情勢に興味は昔からあった。だが、例えば大学時代のそれは、手足や血や肉には直につながっていない、頭でっかちな知識にすぎなかった。
歴史学者の清水透さんはこうした実体験と結びつかない知識を「感じることのない知識」と呼んでいる。とても好きな言葉だ。
だが、20代の間に色んなことがあった。
オランダやブラジル、ウガンダに住み、今では各々の場所に大切な人たちがいる。
社会人になり、コロナがあり、ウクライナの戦争やガザの虐殺が起きた。今年は日本でも大きな災害があった。
最近は毎朝、スマホで新聞を読みながら、仕事と日常があることは奇跡のようだと感じながら、カーテンを開ける。こんなにもニュースを読むのが苦しいことは今年までなかった。
税金も納めている。市民税がめっちゃ高い。
パートナーがいて、結婚も考えているけれど、選択的夫婦別姓が実現しないことが心理的ハードルになっている。
円安。値上げ。年金。社会保障。定年。
否応なしに、どんどん、政治は自分ごとになってきている。
いや、本当は最初からそうで、今まで気づかずに生きてきただけなのだ。
年を重ねて、政治が「感じる知識」になってきたのである。
選挙制度からこぼれ落ちて感じたのは、「政治に参加できないこわさ」だった。
もちろん、投票しても、票を入れた政党や候補者が当選するとは限らないし、声が政治に届かないと歯がゆい思いをしている人も多いだろう。
でも、選挙権があるのに投票しないのと、投票した人が落選するのと、投票自体ができないのは、別の話だ。
意見があっても、伝える術がないのは、こわい。自分事が自分の管轄の外で決まっていくこわさだ。
政治と生活を身近な今、そのこわさが際立つ。明日戦争は始まらないが、五年後十年後は分からない。
振り返ると、僕は自分に選挙権があることが、当たり前だと思って生きてきた。
でも、日本で生活する外国人の方は今も帰化しない限り選挙権がないし、女性参政権が初めて行使されたのも第二次世界大戦後の1946年。
そもそも日本で初めて選挙が行われたのは1890年、たかだか百数十年前だ。
ほんとうに改めて思った。
選挙という「声を届ける仕組み」は一人一人が行使する大切な権利なのだと。
選挙、行きたかったな。今回は、行けないけれど。
とりあえず、今はできることとして、この文章を書いた。
少しでも国が良い方向に進む選挙でありますように。
(おわり)
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