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【注目新刊】2023年3月中旬

論理学

『誤謬論入門 優れた議論の実践ガイド』

「はい、論破!」「それってあなたの感想ですよね」
そんなこと言われてイラッとした。
でも、相手の話のどこがオカシイのかうまく言い当てられない…
そんなあなたに朗報です!

初版が40年前に登場して以来、改訂を重ねながら定番テキストとして使用されている論理学の教科書の邦訳です。
論理学と言っても、どうすれば論理的な議論となるかではなりません。
「論理的に見えるけど、実は論理的じゃない間違った議論」のさまざまなパターンを多く紹介、それらがなぜ非論理的かを解説します。

思想

トマス・リード『人間の知的能力に関する試論』

トマス・リードという名前を聞いても、どこの誰なのか知っている方は少ないでしょう。
かく言う私も、ほとんど知りません。
たまたま学生時代に受けた集中講義の先生が、リードについて単著(↓)を出していた関係で知っていただけです。

スコットランド啓蒙時代のコモンセンス学派の代表的な人物、トマス・リード。
その知名度の低さ、哲学史の本での登場の少なさにもかかわらず、実は結構な影響力を発揮した哲学者です。

日本では、18世紀スコットランド啓蒙というと、アダム・スミスやデイヴィッド・ヒュームが知られ、邦訳や関連書も多数あります。
しかし、当時のスコットランドで主流だったのは、彼らではなくむしろリード側でした。

ヒュームを徹底的な懐疑論として受け止めたリードは、観念による知識の獲得という前提を廃棄して、
それ以上は分析できないようなコモン・センス(共通感覚、一般論、常識etc.)から出発することを模索しました。
(おそらく、この試みが徹底的でない=哲学っぽくない印象があるから、リードは忘却されていったのではないでしょうか)

その影響は、19世紀全般に広がっています。
ヒュームを徹底的な懐疑論とするコモン・センス学派の見方は、カントのヒューム観に影響を与え、彼を『純粋理性批判』へと促します。
アメリカでは大学で著作が利用され、のちのパースの批判的常識主義へ。
フランスでは、メーヌ・ド・ビランやクーザンに受容され、フランス・スピリチュアリスムの形成の因子となります。
イギリス観念論にも、直観主義などにコモン・センスの影響が見られます。
ただ、なんの因果か、これらの19世紀の潮流のほとんどが日本では不人気であるんですが…

先月にはリードについての単著も出ていますし、これらの系譜の思想家の著作も読める環境が整っていくといいなと思う次第。

『観念説と観念論 イデアの近代哲学史』

Idea(観念・理念)についての概念史。
第1部のデカルトからカントまでの近世哲学史を「観念」を軸に整理する部分が勉強になります。
トマス・リードもここでは登場しています

『西田幾多郎の行為の哲学』

以前から、西田幾多郎、鈴木大拙、九鬼周造、あたりは興味はあるものの、なかなか手が出せないままでいます。
特に後期西田哲学は難しくて…

その後期西田哲学を扱った単著。
実物を見て、読みやすければ購入しようかなと検討中です。

政治思想

バジョット『イギリス国制論』

長年『エコノミスト』誌の編集長を務めた、19世紀イギリスのジャーナリスト、評論家であるウォルター・バジョットの政治学上の主著の新訳です。
新訳の訳文の正確性について疑義があるようですが、興味がある方は、従来の中公クラシックス版と読み比べてみるのもいいかもしれません。

日本の皇室についての議論が求められている今日、19世紀のイギリス皇室の意義の考察で知られる本書の新訳は、時機を得たものと言えます。

でも、個人的には、バジョットの時事評論の翻訳の方がこの新訳よりも読みたいのです。
時事的な論文の翻訳や解説に必要な、この時代の言説の該博な知見を有する訳者によって、バジョットの他の時事的な論文も翻訳されないかなと、期待しています。

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