【注目新刊】2023年2月後半
インフルエンザにかかってしまい、しばらくダウンしてました。
そのしわ寄せで小忙しくなって、2月は新刊をあまり渉猟できず、
今回は実際に購入したものだけ記載。
政治・経済・社会
白井聡『マルクス 生を呑み込む資本主義』
『永続敗戦論』『未完のレーニン』で知られる著書のマルクス入門書。
人間の生が資本主義に包摂されることにエッセンスを見出しています。
売れ行き好調の斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』に本書も続くのでしょうか。
中山元『労働の思想史 哲学者は働くことをどう考えてきたのか』
マルクス主義者をはじめ、さまざまな時代のさまざまな人が資本主義について色々なことを語ってきました。
しかし、時代や地域をかぎっても多様なはずの具体的な「働くこと」、それらを「働く」という言葉で一括りにして語ると、どうしても一気に抽象化されすぎて、中身が薄くなってします。
そんな「労働」について、多数の思想書の翻訳を手掛けた著者が書いた、思想史の概観書。
『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946 経済学者、思想家、ステーツマン』 (上下巻)
経済学者という枠におさまらない知識人、実務家としての活動も視野に入れた、ケインズ研究の基本図書、大部の伝記です。
株や賭博で大損ぶっこいたというような人間くさい逸話も詳しく載っているのでしょうか。
読み切れないとは思いつつも、つまみ食いするだけでも20世紀前半のイギリスについて色々と知ることができる人物だけに、本書も購入してしまいました。
文庫で出版するとか、もうちょっと財布にやさしければよかったんですが…
『無用の効用』
役立たずこそ役に立つ!
社会にとって役に立たない=無駄なものが排除されることに異議を唱え、
「役に立つこと」にしばられることへの批判。
役に立たない文学や芸術を愛せる人間になろう!
社会にとって役に立つことが労働の本義。
(だからこそ、ブルジット・ジョブが批判として共感を呼ぶわけです)
その労働について考える対になりそうかなと思って購入。
主旨には賛同できますけど、あまり肩肘はって異議を唱えるのはちょっと…という印象。
でも、贅沢というものは、やっぱり無駄だからこそ、贅沢と言えるものですよね。
人生はできるかぎり贅沢にすごしたいものです。
テクノロジーと人文知
『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』
精神疾患のメカニズムや治療法について、複数の研究者が1章ずつ担当して、自身の研究分野からの知見を紹介。
本書のコンセプトとは外れてしまうのですが、個人的には精神分析との関連が気になり、購入。
20世紀の人間学の主要な一角を占め、今日でもフェミニズムなどで重要な枠組みとなっている精神分析。
その発祥の地である精神疾患が科学的に解明され、また違った見え方がしてきた時、精神分析もまたどのように姿を変えていくのでしょうか。
『Liberty 2.0 自由論のバージョン・アップはありうるのか?』
プラットフォーマー、AI、ナッジなど、今日の経済技術水準で、古典的な観念である「自由」について語ることはいかにして可能か。
10人の人文社会科学系の学者による個別論文と、各論文への共同討議。
自由論の新しい可能性を探るという主旨ですが、むしろ困難の方が際立ってしまったような印象も…
SF的な発想の飛躍が今日では要求されているという印象を強くしてしまいました。
『現代思想 vol.53-3』 特集ブルーノ・ラトゥール
昨年秋に逝去したブルーノ・ラトゥール(1947-2022)の特集号。
自然科学をはじめ、普遍性を自認する西洋近代に対して、西洋が他文化を理解するための文化人類学の手法を使って、西洋の非普遍的な特徴をあぶり出すことから始まり、
ついには西洋非西洋両者を包括的に理解するための「アクターネットワークセオリー」を提唱するにいたった、私の大好きな思想家・文化人類学者です。
同じく近代で好きな思想家ホッブズと並んで、議論の出発点が常識的かつシンプルなところ、そして、その結果として出現する世界が常識から外れていくのが、個人的に高ポイントです。
その常識から外れていく歩みや、歩みの結果として見える風景の面白さというのが、思想書を読む醍醐味みたいなものを味合わせてくれるからです。
文化人類学
『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』
タイとラオスの山岳地帯に住む500名ほどの少数民族ムラブリ(森の人という意味)。
「就活から逃げ出した言語学徒の青年が、語尾が上がっていくという話し方の美しさに惹かれて、文字を持たない少数民族と交流してみた」という、体当たり体験記。
19世紀的な文化人類学の最後の末裔かもしれないような印象。
著者が関わった『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』という映画もあるそうです。
ムラブリの姿を映像化しただけでなく、人喰い伝説で100年ほど絶縁された(どうやって数えたかは怪しい気がしますけど)ムラブリのグループ同士を再会させたりもしたという内容らしいです。
思想
『友情を哲学する 七人の哲学者たちの友情観』
ハンス・ヨナス研究で知られる著者による新書。
取り上げられる哲学者は、アリストテレス、カント、ニーチェ、ヴェイユ、ボーヴォワール、フーコー、マッキンタイア。
ただし、友情(=友愛・兄弟愛)について正面から取り上げているのはアリストテレスくらい。
他の哲学者の場合は、人類愛や自己犠牲、男性同性愛や女同士の友情など、友情とつながってそうだけど友情ではないものを扱っています。
それらが、どう友情論につながっているのか。
男女の愛をあえて外していたり、なかなか面白い構成だと思いました。
また、それぞれの説明の補助に、平成時代のマンガを使っています。
各マンガのどんなシーンを選んでいるか、どう解釈してるかも気になります。
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