【注目新刊】2023年3月上旬
思想
ボーヴォワール 決定版『第二の性 I 事実と神話』
著者の伴侶であるサルトルすらほとんど接点のない世代の私にとって、ボーヴォワールは名前しか知らない存在です。
フェミニズムの文献として、現代的な意義があるかどうかもわかりません。
むしろ、約80年前のヨーロッパの女性を取り巻いていた具体的な文物への言及に興味があって、今回、購入してみました。
星野太 『食客論』
崇高論で知られる著者の今回のテーマは食客(パラサイト)=寄生。
さまざまなテクストを取り上げながら、友でもなく敵でもなく、共生とも歓待とも異なる寄生という関係を、さまざまな社会や人間関係のなかに見出していくとのこと。
パラサイトと聞くと、同じ題名を持つミシェル・セールの『パラジット』が真っ先に思い浮かびます。
ただし、販促文で取り上げられている人名の中にセールが入っていません。
寄生にどのような意味合いや評価を込めているか、セールの著作とどのような関係にあるのか、興味がわいてきます。
そんなわけで、「セールの『パラジット』を先に読見直してから読みたいな」とか思っているうちに、結局この本も読まずに積まれそうな気配が濃厚になっているのはいつものお約束です…
政治思想史・社会思想史
今月は政治思想史の著作が充実。
ハンナ・アレント『人間の条件』
20世紀西洋政治思想史の最重要古典の一冊に数えられる著作の新訳です。
先行する訳は2種類あります。約50年前に英語版から邦訳されたちくま学芸文庫版『人間の条件』と、アレント自身が手を入れたドイツ語版から近年翻訳されたみすず書房版『活動的生』です。
政治学者によるちくま学芸文庫版は、長年読み継がれ、アレントの多くの用語の定訳を用意した労作です。
一方でみすず書房版は、ハイデガーをはじめとするドイツ哲学との関連を意識した訳語を採用するなど、アレントの議論の奥深さや射程を感じさせてくれます。
今回の訳者は、マックス・ウェーバーなど20世紀ドイツ政治・社会思想を取り扱って来た方です。ちくま学芸文庫版に取って代わることはできるでしょうか?
また、訳者による解説書が、翻訳と同時に出版しています。
同じ講談社メチエからは、アレントの『全体主義の起源』やカール・シュミットの解書が出版されています。
特にカール・シュミット本は勉強になったので、解説書も期待しています。
問題は、読むためのまとまった時間がとれるかどうかですが…
森政稔 『アナーキズム 政治思想史的考察』
日本の政治思想史学界で、もっとも畏敬の念を抱いている先生です。
民主主義について著者が行った大学1・2年生用の学部講義を基にした新書もあります。
その研究生活の出発点となったウィリアム・ゴドウィンやプルードンを扱った新著です。
政治という敷石をはがせば豊穣な大地が見える、などという話は、フーコーを持ち出すまでもなく、おとぎ話にしかすぎません。
政治や統治の外側、それをアナーキーとして名指しして想像すること。
それは逆に、そもそも政治や統治とは何であるのかを問い直すこと。
著者の政治思想史に対する見識の深さの由来の一端を味わえる一冊と言えます。
『消え去る立法者 フランス啓蒙における政治と歴史』
ルソー『社会契約論』に登場する「立法者」という存在をめぐる著作。
ただし、ルソーだけでなく、前史としてのモンテスキュー、
ルソーが一般意志論で意識した相手であるディドロの2名が一緒に登場しています。
ルソーの『社会契約論』において、望ましい社会契約の実現困難な部分を一気に解決するために導入された、機械仕掛けの神のような「立法者」という存在は気になっていました。
ご都合主義的に問題を誤魔化すために導入された役割、と片付けて読み流すのは簡単なのですが、そう処理してしまうと何かを取り逃す気がする。
でも、何を逃すのかはおぼろげにも見当がつかない存在でした。
この著作でその疑問が氷解されるのを期待して購入です。
『マルクスの労働価値論』
冷戦時代が遠くなっても、マルクスの人気はいまだに根強いものがあります。
しかし、労働価値説や史的唯物論というマルクスの重要な要素は、現代では言及すらされない、無価値な骨董品扱いです。
この本は、その労働価値説と史的唯物論の成立と両者の関係を扱っています。
マルクスの現代的な意義というホントかどうかな難しい話とは距離を置いて、歴史的な存在としてのマルクスを理解する一助になれば、と期待。
歴史
『サバービアの憂鬱 「郊外」の誕生とその爆発的発展の過程』
1950年前後にアメリカに成立したサバービア(郊外・郊外的なライフスタイル)。
往年の80年代アメリカ映画のいわゆる郊外住宅地の風景です。
第二次世界大戦後の大量消費時代を背景に、都市部の中流白人層が郊外に流出。
そのライフスタイルは、国民的なイメージと結び付きました。
日本でいえば「昭和っぽさ」というのが1番近いでしょうか。
そのアメリカ文化の成立と展開、変容を論じた名著が、約30年を経て、加筆修正されて復刊。
絶版になっていた間、ネットで全文が無料公開されていましたが、現在は序章と第1章のみ公開中です。
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