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孤独で寒い夜にこそ 映画「ホールド・オーバーズ 置いてけぼりのホリディ」感想

今年のクリスマスは、この映画を視聴して過ごそうと決めてた。映画「ホールド・オーバーズ 置いてけぼりのホリディ」。

かなり評価が高かったので、期待していた作品。作中もクリスマス、リアルもクリスマス。クリスマスを孤独に過ごす3人の物語を、一人で見る。うん、最高のシチュエーションだ。Prime Videoもちょうどクリスマスに公開してくれるという、粋なはからい。クリスマス当日にしっかり見ました。


ベタな表現だと、心がじんわりと温かくなるような映画だった。でも、家族といっしょに暖炉の前に座ったときのような、幸せいっぱいの感じではない。

例えるなら、一人寒い夜の帰り道に、冷たくなり始めたカイロを握りしめたときのような温かさ。孤独で辛い時に、ほんの少しだけだけども、自分の頼りになってくれる存在。そういう温かさを感じられる映画だった。


くせ者ばかり

この作品の登場人物を紹介しよう。

厳格で、テストは超難問。ネチネチと生徒を攻めたり、細かい内容を長々と授業し、生徒には全く人気がないポール先生。権力者の子どもにも容赦なく落第させるので、教職員の間でも厄介者扱い。

性格の悪そうな顔が最高。公式サイトより


成績は優秀だけども、素行は悪い問題児。ついつい、余計なことを発言し、色んな人から反感を買ってしまう。ノンデリ青年アンガス。

公式サイトより


寮の料理長、メアリ。くせ者の2人を、たしなめる側の大人である。が、彼女も彼女で、息子を戦争で亡くしたばかりと、重たい背景があり、精神は安定しない。それに昼からお酒とタバコはセット。

公式サイトより

こんな3人で過ごす、クリスマス。それが本作品の物語。


くせ者ばかりだが、どの登場人物も大好きだ。人間ってのは、物語の主人公みたいに、清廉潔白には生きられない。意地をはるし、嘘をつくし、情けない。けれども、不器用に一生懸命毎日を生きていくしかない。そんな人間たちが、手を取り合って(でも時には互いに傷つけあいながら)生きていく。

一人で過ごすクリスマスを過ごすような人間とかには、温かい家族のホームドラマよりも、こういう映画のほうが心に染みる。


ノンデリっぷりに共感

男2人のノンデリっぷりが大好きだ。特に、アンガス。

彼は悪意で人を傷つけようとしているわけではない。感情を制御しきれず、思わずことばが口から出てしまう。というより、判断する前に思ったことが出てしまうのだろう。

頭の回転が早くて、それが感情についていない感じ。で、聡いから、言ってから「あ、ヤベ…」ってなる。バーで退役軍人と喧嘩になるシーンなんかは、その象徴だろう。その後の、先生の対応で2人の信頼が少し増すところも含めて、あのシーンは好き。

顔のキョドり具合が素晴らしい演技だった

自分も、同じようなことをしでかした経験が何度もあるので、非常に共感できた。悪意はなくても、人を傷つけてしまう。そして、精神が未熟だから、その誤りを修正できず、むしろ悪い方向のキャラで自分を進めてしまう。その不器用さが愛おしい。


で、ふつうの映画であれば、それを受け止めるのは、立派な教師が相手となる。しかし、今作品は嫌われ者の堅物教師だ。

彼も彼で、問題人物。他人には清廉潔白を求めるけども、自分は嘘を付く。久しぶりに会った友人に、見えをはって大嘘を言ってしまう。しかも、誤魔化し方も下手くそ。嘘をつき慣れてないからだ。

まさに、自分に優しく、他人に厳しいという、お手本にはほど遠い人物。でも、私もそうです。人間ってそんなもんだろう。そして、お前もそんなもんか、とアンガスと同じように彼に共感する。

だけども、彼は根はまっすぐで純粋なのだ。それこそ、社会にうまく馴染めないくらいには。どれだけ人間としてダメな部分があっても、周りの人間に嫌われても。彼なりに自分の理想の教師でいようとする。だから、嫌いにはなれない。

そんな2人が、ゆっくりと互いを認めていく。本当にゆっくりと。そして、迎えるラスト。


鶏小屋のハシゴ

こういう映画で、予想される結末はこうだろう。取り残された3人は実の家族のような絆を育み、それぞれの問題を解決して、幸せになりました。

そんな、絵本に出てくるような結末にはならない。そりゃそうだ。境遇も年齢も違う人間が数日間一緒にすごすだけで、すべてが解決するなんてことはありえない。


作中にこんなセリフが出てくる。

多くの人にとって、人生は鶏小屋のハシゴのようなものだ。
クソまみれで、短い。

ポール先生のセリフより

作中に出てくる登場人物たちは、クソまみれな人生を送り続ける。少し好転した人もいるが、基本的には変わらない。両親との問題、亡くなった息子、そうした諸問題は、当然解決していない。むしろ、ポール先生においては、状況が悪化しているとも言えるだろう。

そんな状況でも、前を向いて生き続けるしかない。年齢や職業を超えて、一緒にいい時間を過ごした人たちとのかけがえのない時間を胸に抱きながら。「自分は大丈夫」と、虚勢を張りながら。

きっと、作中の登場人物はふとした時に、思い出す。レストランでテイクアウトしたアイスに火をつけて、はしゃいだあの瞬間を。そして、ため息をつきながらも、少しずつ、前を向いて歩き始めるのだろう。

映画全編の流れがきれいにまとまった、いいラストだと思う。余韻のある良いクリスマスを過ごせた。


p.s.

これ、なんの前情報もなしに、映画館で見れていたら最高だったろうなと、少し悔やむ。ちょっと前評判が高すぎて、

ハードルが上がりすぎていたところもあったのだ。来年は、ミニシアターでこういう映画を発掘していきたいなとも思える、いい映画であった。


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