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総集編の劇場版、かくあるべし 「 BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 : 春の陽だまり、迷い猫」 感想

昨今のアニメ業界の「あるある」な流れとして、TVアニメがヒットしたら、その総集編を映画化する、というのがある。直近だと、『ぼっち・ざ・ろっく』のヒットが記憶に新しい。同じバンドアニメで、今年春アニメを大きく盛り上げた『ガールズバンドクライ』も劇場版総集編の製作が決まった。

もう一度好きな作品を大きなスクリーンで見ることができる。それはそれで、素晴らしいことだし、そうして生まれた収益が、次回作に繋がってくれると思うと、多くのファンにとって、この流行りは、いいことだろう。

しかし、自分は素直にこの流れを受け入れられなかったりする。
そう、あくまで総集編なのだ。ほんの数カットだけの新規カットと、新しいED曲。そこにあるのは、それだけ。一方で、映画館には、120分すべてが0から作られた映画たちが並んでいる。そうした状況で、総集編の作品に足を運ぶこと。

どうにも、これに抵抗があった。確かに、新曲は聞きたいし、特典のグッズが良かったりしたら、惹かれる。だけども、まんまとオタク向けの商法にのせられている気がして、天邪鬼で捻くれ者の心が劇場に向かうことを躊躇わせるのだ。


そんなめんどうくさい考えを持つ自分が、「総集編の劇場版かくあるべし」という映画に出会えた。

劇場版『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 春の陽だまり、迷い猫』を視聴してきた、その感想になる。


要楽奈がMyGO!!!!!にいる理由

この映画は、TVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の前半部分の総集編になる。しかし、TVアニメを単にツギハギした作品ではない。むしろ、新作と言ってもいいくらいの新規カット、いや、新規エピソードが追加された作品だった。

では、その新たに追加されたエピソードとはなにかというと、バンドのギタリスト「要楽奈」に焦点を当てたエピソード。

公式サイトより

彼女は、TVアニメ版ではジョーカー的な立ち位置というか、ミステリアスなキャラだった。ボーカルの燈のことを「おもしれー女」といい、勝手にスタジオ練習に参加(非定期)してきて、勝手にメンバーになる破天荒ぶり。ただ、ギタリストとしての腕前は天才的。そんなキャラだった。

彼女の音楽の動機はなんなのか、何でMyGO!!!!!というバンドに惹かれているのか。詳細は描かれずに、まさに作中でキャラたちから呼称されているような「野良猫」的存在だった。


そんな彼女の、まさに生い立ちとも言える、過去編から物語は始まる。
(余談だが、TVアニメ版を見た人なら思わず開始3秒で笑ってしまうすばらしい導入だった。)

この過去編がとんでもなくすばらしかった。体感としては、TVアニメ1話分くらいの時間はあったような気がするが、実際はその半分くらいの時間しかなかったかもしれない。とにかく、そう錯覚するくらい、満足度が高かった。

バンド「MyGO!!!!!」は、迷子の少女たちが、自分の居場所を探し続けるバンド。そんな中で、どうして要楽奈という「おもしれー女」が、そのバンドに参加していたのか。その動機の根幹となるエピソードが描かれる。


幼少期の要楽奈。彼女も、孤独だった。燈と同じ、他人に合わせられない、「にんげんになれない」側の人だった。学校に行く意味を感じられない。自由勝手にギターを弾いてだけいたい。

そんな彼女が本当に理解してもらえて、好きだと思えた「居場所」。それは祖母が運営するライブハウス「SPACE」であり、そこで流れる音楽とバンドだった。彼女は、「そんな居場所が一生存在し続ける」と信じていた。

しかし、そんな大好きな居場所はなくなる。
「一生」あると信じていた「居場所」がなくなったのだ。

そして、彼女はギターを弾かなくなる。好きだったものを捨て、祖母の言いつけ通り、社会に馴染もうとしてみる。しかし、そこに存在するのは空虚な時間だけ。


このバックグラウンドのすべてが、MyGO!!!!!に繋がっている。だから要楽奈は「一生バンドやる」といった燈のことを目にかけ、「にんげんになれない」、だけども「音楽でなら何かを伝えられる」と叫ぶ彼女の歌声に惹かれる。

楽奈の「おもしれー女」という発言にそこまで、重い設定が詰まっているとは。正直、これを見るまでは一番バンドから浮いているなと思っていたキャラだったのだが、それが一番「参加するべくして参加した」メンバーだなと思えた。そう思わせるだけの、強さがあるエピソードだった。

しかも、このエピソードの描き方が本当にうまい。エンタメとしてしっかりと「おもしろい」のだ。楽奈の野良猫的なキャラ性もあるのだろうけども、見ていて本当に飽きないし、次はどんなことが起きるのかと惹きつけられる。


大人の描き方がすばらしい

そして、今作品、自分にとって一番衝撃的であり、嬉しかったのは、しっかりと大人たちを描いてくれたことだ。大人をしっかりと描けることのできる作品は信頼できる。

特に意外だったのが、楽奈の両親をしっかりと描写したこと。こういう突飛な二次元キャラを描くうえで、親を描くことは難しい。
「どんな教育しとんねん」
という冷静なツッコミが、視聴者の頭に浮かんでしまうからだ。

そういった意味で、一番ダブーな存在であると思っていた、楽奈の両親の姿が序盤に明確に描かれる。正直、あの楽奈の性格を作り上げた両親を描くというのは、難しいお題だったと思うが、見事やり遂げた。

自由奔放な楽奈を、優しく受け止めつつ、両親たち自身も、自分の好きなことを貫き通して生きているあの姿勢。まさに、楽奈の両親として理想的な描写だったと思う。

それでいて、母がロンドンへの転勤が決まるものの、楽奈がロンドン行きを拒否したときに、娘のために自分の夢をキッパリと諦めるような、親としての子への想いがわかるエピソードもあり。すごく、楽奈というキャラへの解像度があがった描写だった。


そして楽奈の祖母である、通称「オーナー」。彼女の楽奈に対する接し方は、孫への優しさと、元プロミュージシャンとしての目線と、人生の年長者としての厳しさ、それらすべてが絶妙に混じり合ったものだった。

中学生になってさっそく、入学式をサボり、エレキを弾き倒す楽奈に対して、叱る前に思わず聞き惚れてしまう音楽家ならではの表情。ふだんは何だかんだ甘い、祖母と孫の関係性。でも、楽奈が自分や自分の立ち上げたライブハウスに依存してしまっていることがわかると、彼女のためを思い、畳むことを決意する、教育者としての厳しさ。

本当にいいキャラだと思う。声優の演技もあって、物語がグッと引き締まった。


そして何より、個人的に一番好きな「大人」だったのは、ライブハウスでオーナーを手伝っていた、「真次凛々子」というキャラ。名前も聞いてもわからないと思う。

TVアニメ版11話より 

この人。実は、TVアニメ版のときから、自分にとって心に残るセリフを残していたキャラだった。

11話。一度バラバラになりかけたバンドが、直近の日程でブッキングされたライブに出るかどうか悩んでいる時。低クオリティな演奏をしてしまって、「恥かくのはこっちですよ」という立希のセリフに対して、笑いながらこう返す。

そんなの、自分次第だよ

「これだから大人は…」と呆れる彼女たちに
「大人だから言えるんだよ~」と明るく返す。何気ない会話のやり取りだけども、すごく深いことばだなと思った。いろんなバンドを、支える側として見てきた、大人としてのことばだと、自分は思えたのだ。


そんな彼女が、本作品でも重要なシーンを担う。このシーンでより彼女のことが好きになった。
それは、ライブハウス「SPACE」が閉鎖したことで、ギターを弾かなくなった楽奈に、ギターを弾かせるというシーンだ。

自分にとって、このシーンが一番、この映画で感動した。
オーナーは、「ギター以外の外の世界を知り、自分で居場所を作れ」と、楽奈をあえて突き放す。そうしてしまった以上、その居場所作りに深入りすることは、大人としてできない。形を変えて、また祖母に依存してしまう関係性に戻ってしまうからだ。

そんな時、迷える子猫に、優しく手を差し伸べたのが彼女だった。楽奈のことをスタッフとしてずっと見守ってきた彼女は、SPACE以外の場所で、ギターで居場所を作ることを提案する。自分の音を誰かに伝える場所を、そっと用意してあげる。

この絶妙な距離感が、すごく「大人」だなと思ったのだ。これは、ある意味「オーナー」や「おばあちゃん」、「親」といった顔を持つ人にはできない役割だったと思う。

彼女の提案によって、楽奈はギターを手に取り、弾き始める。たった1人の観客に向かって、ゆっくりと弾き始める。

今まで弾いていた、テクニカルでロックな、祖母の演奏のコピーではなく。寂しさと、その思いをことばにできないもどかしさを感じさせる、自分が作った綺麗なフレーズで。

そして、演奏が終わると、凛々子さんの目には涙が溜まっている。作中で初めて、楽奈の演奏が「おばあちゃん以外の人」に「伝わった」瞬間だった。

演奏と共に流される、過去の楽奈の映像も合わせて、グッとくるシーンだった。凛々子さんと同じように、思わず目がうるんだ。もうこのシーンを序盤で見せられただけで、この映画を見る価値はあったなと思えた。


総集編としても高クオリティ

以上が、新規エピソード部分で、自分が感動した部分である。それ以外にも、総集編として、本作品はよくまとまっていると思う。

TVアニメ版では、かなり多くの時間を費やされた「CRYCHIC」関連のエピソードが、かなり大胆に削られている。あくまで、今作品は「MyGO!!!!!」というバンドに焦点を当てた作品だということをハッキリと主張した作品構成になっている。

こうした総集編として再編するにしても、しっかりとコンセプトを持ってまとめているのは非常に好感を持てる。


さらに、追加の新規カットがどれも素晴らしい。序盤に挿入された新しいエピソードだけでなく、劇中にもちょくちょく楽奈の新規カットが挿入されている。そのどれもが、「楽奈らしさ」が伝わる、本当にいいカットなのだ。

家の縁側で、春日影を口ずさみながらギターを弾くシーン。すごく曲を気に入って、思わず口ずさんでしまう。そんな楽奈の曲への思いがわかるいいシーンだった。それに対する、オーナーと母親の優しいセリフもいい。


自分の勘違いじゃなかったら、今回の劇場版で追加されて好きだったカットがもう1つ。最初のライブの前に、色々とギスギスしている状態のとき、凛々子さんに「練習しなくていいの?」と楽奈が聞かれるシーン。

それに対して「合ってないから、行かなくて大丈夫。」
というような一言で楽奈は返す。これも、メンバー同士の思いがズレている状態で練習なんかしても意味ないし、それが合えば練習なんか最低限やればいい演奏ができると、バンドへの信頼感と自信が伺える、いいカットだった。


コンテンツへの熱を取り戻させてくれる作品

正直、最初に総集編の映画をやるという情報を聞いたとき、あまり期待していなかった。が、見事に裏切られた。もともと、MyGO!!!!!というアニメが好きというのもあるが、ここまで1本の映画としても感動できるとは思わなか合った。

なんど聞いても春日影はいい曲だし、新曲のEDも非常によかった。自分は夏頃にハマった新参者だったけども、少し冷めかけていたMyGO!!!!!というコンテンツへの愛が、再び燃え上がった作品だった。

新規エピソードの量といい、編集の仕方といい、総集編かくあるべしな映画だったと思う。感情がデカすぎてまだ書けていないTVアニメ版の感想を書かねば…


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