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予測可能・回避不可能の感動 映画『野生の島のロズ』 感想

人間って生き物は、感情を持って生きている。
そして、それってすごく素敵なことなんだ。

映画『野生の島のロズ』を鑑賞し、涙を流しながらそんな当たり前なことを改めて強く実感した。今日はこの映画の感想を書かせほしい。


予測可能、回避不可能

本作品のあらすじは極めてシンプルだ。無人島に漂着した最新型のアシスト・ロボット「ロズ」が、雁(がん)のひな鳥を育てるという話。

このあらすじを聞いた時、だいたいの人はこんな感動展開を予想するだろう。

  • 動物たちに未知の存在に恐れられるロズ。感情も理解できないロズは周囲とのコミュニケーションにも悩む。

  • しかし、ひな鳥を育てていくうちにロズに感情が目覚めていく。そんなロズを周りの動物たちは受け入れる。そして母と子の別れが訪れる。

  • ロボットの帰るべき場所に連れ戻そうと忍び寄る人間の魔の手。なんやかんやあって、人間を撃退し、ハッピーエンド。

PVなんか見てしまったらもう完全に予想出来る。わざわざこんなふうに書いているということは、これを裏切るような大どんでん返しがあるのかというと…

全然そんなことはない。ほぼ完璧にこの予想通りなストーリー展開になる。そして、感動ポイントも全く予想していた通り。


性根が腐った人間である自分は、予想した感動ポイントが近づいてくると、露骨に身構える。
「ここじゃ絶対に泣かないぞ」と強い決心を持って椅子を座り直す。

しかしながら、あっさりと敗北してしまった。ポロポロと予想通りの感動ポイント3箇所で涙を流してしまった。

完全に想像した通りの展開だったのに。むしろ、ちょっとテンポ早いなぁなんて頭の中ではケチつけてたのに。


圧倒的な映像のパワー

ではなんで泣いてしまったのか。それはひとえに映像のパワーだ。あまりにも美しいアニメーションに、有無も言わさず感動させられる。

美しい映像と音楽で描かれる世界。そこで必死に生き抜く登場人物たち。その様子を見た時に、頭で細かいことを考えるよりも先に、心が揺さぶられる。

まさしく、「感」じて心が「動」く。それは、人間が感情で生きる生き物だから。本作品で繰り返されるテーマだけども、それを映像で実感させられる。


雄大な自然に戸惑うロズ。大空へと羽ばたく息子を見守るロズ。寒さの中、動物たちを守り抜くロズ。そんな1シーン1シーンの描写が、グッと心に来る。しかし、こうしてことばで書き記しても、1%もよさは伝わらないだろう。

感じたことや見たことを言語化し、他者に伝えること。それは理性によってなされる。理性があり、ことばがあるから、人は自分じゃ知れないことを知れる。他人にこうやって映画をオススメすることもできる。

けれども、それだけじゃ表現しきれないことは多々ある。その1つが感情だ。「切なくて泣けた」とか、近しい表現で飾り立てることはできても、それは本質ではない。映画館で、圧倒的なスクリーンと音響の前で体験し、感じたこと。それによって涙が出たこと。それを100%そのままことばで伝えることはできない。

人間が理性だけで動く生き物ではなく、感情で生きている生き物だということを改めて実感させられる。そして、その尊さも。


理性を否定しない

この「感情」や「心」というのは、今作品の非常に大きなテーマだ。そしてそれの対となる、「理性」についても今作品はしっかりと触れている。

主人公が野生の島のロボットなのであれば、無機質で冷たい論理的な「プログラム」を敵対するものと描くかもしれない。

しかし、本作品はこれを真っ向から否定しない。理性と感性の中和。そうしたテーマに触れていく。


物語の後半。動物たちに、ロズはこう説く。
「感情によって愛情を持ち、理性で本能(プログラム)を制するべきだ。」
そんなふうに、論理的な「理性」の存在をロズは完全に否定しない。

もちろん、この話題を深入りしてしまうと、それだけで小難しい長編映画が作れてしまう。それをやるには尺不足だった。細かいところに目を配ると、ツッコミどころのある展開だったのは事実。もっとも、先述した映像の力で、寄り添う動物たちの絵面でしっかりと泣けるのだが。

公式サイトより

しかし、大人も子どもも楽しめるエンタメ作品として成立させるには、あれくらいの描写が最適だと思う。そうした調整をしながら、このテーマを触れたことを高く評価したい。単なる感動物語(として視ても凄まじいクオリティなのだが)にとどまらない作品だと感じるのは、このパートがあったからこそだ。


とにかく映画館で見て

ここまでべた褒めしているが、自分の中でここまで評価が高いのは映画館で見たからこそな気もする

これが家の小さなモニターとスピーカーで視聴していたら、感動もその分小さくなっていただろう。とにかく、圧倒的な映像の美しさこそがこの作品の肝なのだから。

3回も泣いてしまうくらい強く感動したのは、自分が好きなテーマ(ロボットと人情)だったのもあるが、老若男女どんな人でも、感動できるすばらしい作品なのは間違いない。ぜひとも劇場で体験してほしい。


それにしても、こんなクオリティの高いアニメーション作品を安定的に生み出すドリームワークスは素晴らしい。

『ヒックとドラゴン』や『ボス・ベイビー』など、好きな作品の多い制作会社だったけども、ますます好きになった。今後も注目していきたい。日本も、コンスタントにこれくらいの素晴らしい映画を作り出す製作会社がほしいなとも思う…


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