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24年映画No.1の余韻 映画「ロボット・ドリームズ」 感想

映画、「ロボット・ドリームズ」を鑑賞してきた。

アカデミー賞長編アニメーション映画賞にもノミネートされ、海外の名だたる賞を受賞した、アニメーション映画。日本でも11月初旬から上映されているのだが、どんどんと評価が高まり、上映する劇場は拡大していっている。

自分も、X(Twitter)でTLに絶賛の感想が流れてきたので、それを契機に突発で見に行ってきた。平日の小さな映画館でも、かなり席は埋まっていてなかなかに盛況だった。


で、映画の感想。

いやー、久しぶりに劇場で泣いてしまった。
予告編の時点で、「感動しますよ」オーラはビンビンだったので、斜に構えてしまう自分は「絶対泣くもんか」と意地をはっていたのだが。あっさり敗北。

作品の余韻も凄まじい。見終わった後、ドンドンと評価が上がっていった。翌日にグッズを買いにもう一度劇場に戻ってしまった。売り切れだったけども。こういう感情になるのは、いい映画な証拠。

それほどまでに、自分をはじめ、多くの人を魅了するこの作品の魅力とは。自分なりの考えを書いていこうと思う。ネタバレ要素も多いので、閲覧注意。




感情移入させるアニメーション

本作品のストーリーはシンプルだ。

大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、
孤独感に押しつぶされそうになっていた。
そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。

数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱―― それは友達ロボットだった。
セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋……
ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。
ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。

しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りに
ロボットが錆びて動けなくなり、
ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。
離れ離れになったドッグとロボットは、
再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。
やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは―― 。

公式サイトより

要約すると、孤独な主人公「ドッグ」と友人ロボットが仲良くなっていくが、あるトラブルによって離れ離れになってしまう、という友情もの。

ロボットとドッグ

「2人には愛のようなものもある」と解釈する人もいるが、自分はよりピュアに友情モノとして捉えていいかなと思う。

まぁ、誰にでも思いつきそうなストーリーだ。新規性はない。一応、主人公はじめ、登場人物が動物になっていたりする。が、『ズートピア』や『BEASTARS』のような、その設定を活かしたドラマがあるわけではない。

でも、このシンプルさを圧倒的に補うだけの魅力がこの作品にはある。むしろ、これがあるからこそ、この作品はシンプルなストーリーでよい。複雑な設定や物語はノイズにしかならない。


それは、キャラに感情移入させるアニメーションだ。

よく「作画がよい」なんてアニメ好きの間で聞くことばだが、そういう意味のアニメーションの良さではない。動き自体はCGアニメーションほどヌルヌルじゃないし、キャラデザもシンプル。

じゃあ、何がそんなに魅力的なのか。それは、グッと登場人物に感情移入してしまう、細かい「動き」だ。「演技」や「演出」と言ってもいいかもしれない。

1つ1つの所作が、本当に現実感のある動きとして表現されている。実際に、人間の大きさの犬や、ロボットなんているわけがない。でも、いるかもしれないと思わせるだけの動きのリアリティ。単純にコマ数を多くして動かすだけではなく、緩急をつけて、「重さ」や「感情」を表現する。


具体的な箇所で書こう。本当に細かいところなのだが、見た人の多くが印象に残っているだろうなと思うシーンが有る。物語の冒頭も冒頭、OP前の、主人公ドッグが一人で食事しているシーンだ。

アメリカっぽい、美味しくもないし体にも悪そうな冷凍食品を無表情で一人で食べているドッグ。食事を楽しむというより、腹が減っているから仕方なく、と言った感じで食べる彼の仕草により、孤独で彩りのない人生を送っているんだなということが、映像だけでも伝わる。

そしてテレビを見ながら、コーラを飲もうとする。カップを手に取り、ストローを加えようと口を持っていく。けども、ストローが重力に従ってクイーっと口とは反対の方向に向かってしまう。そのストローを、口で追いかけていく。

この動きは、ファストフードなんかを食べながらテレビを見ているときに、一度は経験したことがあるのではないだろうか。何気ない、「あるある」である。日常の一瞬の描写にしかすぎない。

しかし、自分はこのシーンを見たとき、この映画は「アタリ」だなと確信した。こういうアニメーションを描ける映画がおもしろくないわけがない。こういう描写があるからこそ、フィルムの登場人物ではなく、現実にいる人物だなと思えるし、感情移入ができ、物語が面白くなる。

そして、この演出がさらにすごいのは、ストローを追いかけて顔を動かして先で、隣部屋のアパートに視線誘導されるところ。そこで仲睦まじいカップルの様子を、孤独な主人公は目撃する。そして固まる彼の表情。

もう、この数シーンで、視聴者は物語の世界に入りこまされる。主人公のことを他人事とは思えず、彼の孤独とやるせなさに、胸を痛めている。すばらしい導入シーンだと思う。


ありがちな展開も、涙なしでは見られない

自分が涙をしたシーンはどこか。感想コメントなんかで、「ラストシーン10分は涙が止まらない。」みたいなコメントが多く見られたが、自分はそこではなかった。

中盤、ロボットが砂浜に一人で1年間を過ごすシーンだ。その中の冬のシーンが、もう自分にはたまらなかった。

前述したアニメーションと、丁寧な物語描写で、ロボットにグッと感情移入してしまっている。その中で、あの描写はずるい。2回泣いてしまった。


1つ目は、初めての雪を体験するシーン。寒くて辛いはずなのに、彼は美しく舞い落ちる雪の結晶に、キラキラと目を輝かせて、笑顔になる。雪が冷たくて、口にいれると水になることも、この瞬間に初めて彼は学ぶ。

そして、動けない体の中で、かすかに動く首と口を使って、必死に雪を口に入れようと、楽しそうにパクパクする。純粋無垢な子どものように。

「あぁ、自分も雪が降ったら目を輝かせて、あーやって食べようとしてたな」と子どものころを思い返す。そして、それと同じくらい、いや生まれてから1年も経ってないから、それ以上に子どもなロボット。それなのに、なんでこんな辛い目に遭わなきゃいけないんだと、そう思うと、もう目がウルウル。

映像も、音楽も、とても美しく、優しい。でも、そこに映される現実は残酷で。そのギャップも相まり、涙がツーっと出てしまった。


その後の、ロボットと鳥たちのシーンもずるい。あのシーンで感動しない人間なんていないだろう…

真の孤独とは、一人でいるときに感じるものではない。誰かと触れ合い、社会と交流しているとき、そこから自分は隔離されているんだなと思った瞬間に訪れる。

おそらく、ロボットが一番孤独を感じたのは、ドッグが去った直後でも、雪に埋もれていたときでもなく、あの雛たちと別れたときだったろう。その彼の心境を思っただけで、また泣ける。


これらの展開は、まぁ正直PVを見ていた時点で予想できていた展開だった。普通の映画だったら、お涙頂戴なシーンだなと思い、それほど感動しなかっただろう。

でも、これが先述したアニメーションや演出によって、ロボットやドッグにたっぷり感情移入できているから、感動してしまう。涙してしまう。無機物であるロボットに、気づいたら「寒くて辛いだろう」とか、「子どもなのに」と、まるで人間かのように文章で表現してしまうくらいには。

この作品は、アニメーションという表現の底力を感じさせてくれる。本当に、キャラクターたちに感情移入することができれば、物語はシンプルでいい。それだけのパワーが、アニメーションにあれば。


最後の展開

ラストの展開。自分は好きだった。しかし、若いころにこの映画を見ていたら、好きにはなれなかったかもしれない。そういう意味では、絵柄から受ける印象よりは、大人向けなENDだったとも言えるだろう。

「ずっと友達」なんてきれいなことばは、言うだけなら簡単だ。だけども、そんな簡単に実現できないことは、大人になった今ならわかる。映画『スタンド・バイ・ミー』を思い出すような、素敵なエンドだった。

「友達」という関係性は移り変わる。けれども、友人と過ごした時間、思い出、そして友情は、決して失われることはない。

これをことばでなく、音楽とダンスで表現したのが、この映画のイカスところだ。多種多様な人(動物)たちがそれぞれの幸せな生活を暮らす、80年代のニューヨークの街並み。その空の下で踊る、相棒とロボット。流れる「September」。

Ba de ya - say do you remember
     ああ、覚えているかい
Ba de ya - dancing in September
     一緒に踊った9月を
Ba de ya - never was a cloudy day
                  雲1つない空だった

Earth, Wind & Fire 「September」より

終わりの余韻という意味では、今年の映画でトップクラスかもしれない。上映している劇場がもし近くにあれば、ぜひとも見に行ってほしい映画だ。


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