緊急のレシピ2 コロナで見えてきた新時代コンタクトセンターの姿
Web上でコールセンターのオペレーターの窮状を訴えた記事が話題になっています。
(出典:DIAMOND online 2020.4.25記事より)
3密職場で働かざるを得ない現状を伝えたものですが、コンタクトセンター関係の方なら既にその状況は充分に把握しています。オペレーターの方も大変ですが、SV(スーパーヴァイザー)やその上の管理者の方には更なる負担がのしかかっています。ただでさえ気苦労が絶えない職場で、オペレーターがコロナに感染しないよう、検温、席の配置や固定化、周知のやり方の変更、ヘッドセットの整備から執務席の消毒など新たな業務が感染リスクと隣あわせで増加しているのです。このことを、センターに業務を依頼している企業の窓口の方だけでなく、経営者や公共機関の首長の方に分かっていただきたいと思います。
企業や役所のフロントラインとして使命感に支えられ、我がこととしてお客様や市民に向かい合っているセンターの皆さんに心から感謝とエールを送ります。
次世代コンタクトセンター構築のヒントを「レシピ」という形で紹介している本シリーズですが、こうした環境下でもう一度、今後のコンタクトセンターの在り方を考えてみました。
少し大きな視点になりますが、高度成長期からつい最近までグローバル化という言葉のもと、製造業の海外拠点での生産が促進され、流通網を含めたサプライチェーンが構築されてきました。しかし、新型コロナの災禍の前にこのモデルが揺らいでいます。
同様の流れで、国内ではコールセンターの地方分散化が大手アウトソーサーを中心に図られてきました。地方経済の再生、センター運営費のダウンサイジングといった掛け声の中で、今までこの施策は一定の効果をあげてきました。しかし少子高齢化、働き方改革関連法案の成立など働く環境の変化に加え、新型コロナの影響により、グローバル経済と同様、単なる労働力のダンピングという方法では限界が見えています。
こうした流れを踏まえ、今後のコンタクトセンターはどうあるべきか?を考えてみました。このシリーズのタイトルに「次世代コンタクトセンター」という言葉がでてきます。しかし「次世代」という言葉には、今の状態の延長線上でバージョンアップするというイメージがあります。今回は敢えて「新時代のコンタクトセンター構築」とタイトルを変えさせていただき「あるべき姿」を模索していきたいと思います。
前回の緊急レシピでは、次の時代のコンタクトセンターのモデルを、かなり簡略化して提示させていただきました。
この中をもう少し精緻に検討すると、以下のような構造が見えてきます。
ここでのキーワードは「インハウス」です。1980年代以降、コールセンタービジネスはアウトソーサーの力によって発展、拡大を続けてきました。そのため本来、お客様としっかり向き合わなければならない企業がプロダクトやサービスの構築に目がいってしまい、多く企業が重要な顧客接点をアウトソーサーに「丸投げ」してきました。同様のことはシステム構築においても言えます。さらにアウトソーサーだけでなく、企業内でもCR(カスタマーリレーション)部門に顧客接点のことを任せっぱなしという状態が続いてきました。新型コロナの対応でも、「コールセンターを作って対応に当たらせます!」といった比較的軽い発言が出てくるのもこうした流れの一環のように感じます。ミッションを持った当事者としての企業や行政がお客様や市民としっかり向き合うことが求められているのです。
新時代のコンタクトセンターは、もう一度、お客様と向き合う「インハウスセンター」の構築に力を注がなくてなりません。しかしそのためには3つの条件があります。
①コンタクトセンターに必要なシステムを自らコントロールできる仕組みを
作ること
②自社のビジネスモデルをシンプルに表現できる業務フローを作ること
③BoT、AIなどの最先端の技術を活かし「人の価値」を高める仕組みを
作ること
企業と顧客との距離を縮め、カスタマーサクセスを実現する具体的なプロセスは以下の通りです。
①システムはその多くをクラウド化し、スピーディーに構築する
②そのシステムは企業側の担当で簡単に運用できる
③お客様とのフロントラインはガイダンスも含め容易な案件はBoTで
処理する
④「人」が登場する場面でも比較的簡単な案件は一次対応で処理する
ここではコンタクト量を考慮しつつ「インハウス」と「アウトソーサー」
のハイブリット運用を行う
さらに、その活動は個人の在宅と小規模センターの活用を前提とする
⑤そのために誰にでも分かりやすくアクセス可能なナレッジを構築する
⑥高度な案件は「インハウスセンター」にエスカレーションし処理するが
ここでは社員が社内で対応するとともに、退職者や休職者が在宅で
応対する
つまり、高度な知識と高い意識を持った企業の社員が、自らの製品やサービスをお客様に伝えることにより、真のCXを実現するというスキームです。いわばコールセンターが登場した原点に、デジタル技術を活用しながら戻るということです。
システムに求められる大事なポイントは、企業のシステム担当社員が一定の研修を受ければ扱えるシステムであり、メンテナンスも容易で、その構築は今までより格段に早いことです。ナレッジ構築に欠かせない業務フローの設計はアウトソーサーにゆだねるものではなく、企業の社員によって整理されるべきものです。さらにシステムを理解できる社員を育成していれば、そのシステムに合わせて業務フローを設計することもできます。ここに「丸投げ体質」からの出口があります。
こうして全体の仕組みを企業サイドが掌握し、スピーディーに対応することにより、お客様との関係も自ずと向上していきます。
アウトソーサーの役割は、こうした仕組みをデジタルツールとパッケージにして提供することや、長年培ってきた人材育成のノウハウを活かしBoTと企業エキスパートの間を埋める「人」を育成することです。全体からみればこの方々の活躍の場が最も大きいことになります。依存し依存される関係からパートナーとして共存する関係が望ましいと考えています。
最後に「新時代コンタクトセンター」が目指す姿は、従来のセンターと全く異なり、在宅にせよ、小規模なセンターにせよ、一人当たりの月間稼働時間が今の半分以下にすることです。つまり、今と同じ収入を半分の時間で確保できる価値を提供することです。お客様の用事をBoTが解決できる比率は徐々に向上していきます。その中で「人が解決にあたる価値」は「企業が顧客接点で得る価値」としてさらに重要になっていきます。1980年代から続いた労働価値のダンピングではなく、コンタクトポイントにおける人の価値の向上が「新時代コンタクトセンター」を支える原動力になることを目指しています。
いくつかのセンターで「ありがとう率」をKPIに掲げています。オペレーターのモチベーションアップや応対の改善に使われています。しかし言葉のカウントではなく、真に「ありがとう」と思われる企業品質を作ることが「新時代コンタクトセンター」のミッションではないでしょうか。
次回は予定通り、「第3のレシピ クラウドCRM実装レシピ Salesforceその2」と題し、実装するときに突き当たる壁について、そのティップスを谷川さんと出水の対談形式お伝えします。
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出水 啓一朗 (Keiichiro Demizu)
1974年信越放送入社。2003年WOWOW常務取締役、2006年スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)執行役員常務、2009年同社取締役執行役員専務兼マーケティング本部長を経て、2011年スカパー・カスタマーリレーションズ代表取締役社長に就任。2019年6月同社退任。
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