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SF小説『皆勤の徒』を読まないか?
1.異形異質の物語
やぁ。
今日は、先日読み終わったSF小説『皆勤の徒』の読書感想文をまとめようと思う。ほんとは2週目が終わってからと思ったけど、初見の感想が棄海にのまれて引きちぎれてしまうかもしれないので早速書き起こした。
異形の物語だ。読み始めて5分、こいつは今までにない相手だぞと舌を巻いた。
銀河深淵に凝った降着円盤の安定周期軌道上に、巨しく透曇な球體をなす千万の胞人が密集し、群都をなしていた。
冒頭の書き出しからこんなん。回れ右してマーシアンとかあなたの人生の物語とか読みたくなる気持ちになる。ワカル、ワカル。
だがちょっと待ちねぇお客さん。
この物語は一冊で3度おいしい作品なんですぜ!
2.『皆勤の徒』の楽しみかたのススメ
1.異世界ファンタジー小説として楽しむ
読み出しからこの有様だが、ちょっと待ってほしい。
この広大な宇宙の中の惑星で営まれる生活が全て、人類の理解できるものばかりであるものだろうか?いや、ない。
これはそんな人間の常識外の日常が繰り返される非人間的価値観惑星の出来事、その記録なのだ。
そう思って読み進めれば理解が可能だ。
え?異性文明にも社畜がいるのかって?当たり前だろう君労働を受け入れ給えよ。
2.サイエンスフィクション小説として楽しむ
とはいうものの、ファンタジーではなかなか『なぜこのせいかつようしきになったのだろう?』という疑問に対して回答を用意している物語は少ないと思う。たぶん。
この物語はやっぱりSFで、作中の異質な世界が形作られたからくりが考え抜かれている。異常な日常を記す文章の中からその謎に迫っていくことができるのだ。
君。異常な日常を日常として受け入れつつ、その背後に潜む世界について思いを馳せ給えよ。楽しいから!
3.答え合わせを楽しむ
君は1週目を読み終えた。巻末には作者から寄せられた壮大なるネタバレ、裏設定ノートめいたなんかが付されている。これを読んでぼくは膝をバンバン叩きひざ小僧が真っ赤になった。
そういうことだったか!
鸚鵡とか。兌換とか。
でも2度目でもわからないことはあった。
セスナを孕ませた旅客機ってなんだ。
旅客機がセスナを何機も孕ませたのか。
それとも旅客機が何機ものセスナを体中に孕ませているのか。
3.全4章構成の各章についての印象
第1章『皆勤の徒』
異界オブ異界。ちらほらと現在価値観が顔を出すがそこを足がかりに世界を理解しようと思っても粘液と肉と虫に阻まれる。
だが後ろを向いて帰る気にはならない。不思議と読み進めてしまうのは文章力の強さか。
第2章『洞の街』
ここは昭和の日本なのか?神社を中心に作られた小さなコミュニティタウン。住まうのは異形の人類。夢見るのは在りし日の光景。
第1章よりわかりやすく、共感できる出来事もあるが、終幕に向けて惨事とSFが加速していく。
第3章『泥海の浮き城』
ラドー・モンモンドは忌み仕事を行う裏社会の住人。ある日彼の元に、とある研究機関の長から奇妙な依頼が舞い込んできて…。
と、これまた読みやすいストーリー。だが出てくるのは全部、虫だ。
虫が苦手なぼくでも読めるが、映像化作品は絶対に見たくない。
だが間違いなく面白く、いちばん好きな章。
ラドー・モンモンドって名前かっこいいよね。
第4章『百々似隊商』
さあさあお待ちかねの世界観総決算の章です。
大災害は数えるのも馬鹿らしいほど大勢の人を死に追いやった。残された人々はかつての施設に寄り添いながら中世の暮らしに立ち返るほかない。
今日も白い柔毛に覆われた生物がキャラバンをなし、命がけの旅をする。
世界観は風の谷のナウシカに近い。そのため、お望月さんはじめ従業員有識者の方々は4章から読み始めることをおススメしています。
4.『皆勤の徒』を読まないか?
読みにくい。頭の中で絵を作りづらい。最初はそんなふうに感じた本作ですが、そんなことはございません。作者直筆の挿絵が想像力を手助けしてくれますし、文章も『作中世界で起きているあたりまえのこと』を書いてあるだけです。変に考えすぎず、ありのまま受け入れて読むことで解決できるでしょう。『叛逆航路』のように、人物の顔や背格好がいっさい想像できないケースもありますが、本作はそうではありません。
どうぞお手にとって見てください。もし第1章が読みづらければ、第2章から読み始めるのもおススメです。ちょっと登場人物の関節数や目の数が多かったりしますが、甘酸っぱいボーイミーツガールや祖父母と暮らす田舎の情景とかもあるので、理解がしやすいと思います。
個人的にひとつ。
正直なところ、これまで和製SFを下に見る意識がぼくにはありましたが、本作で吹き飛びました。発想とは国に因らず、人に因るものであることを再確認いたしました。今後もSFを発掘していきましょう。
以上です。
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