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ゲーム屋人生へのレクイエム 77話
なぜ会社の出張にワイフを連れて行ってはいけないかを副社長に説明したころのおはなし
「ゲームボーイ向けのプロジェクトを進めていたんだけど、開発元が倒産しちゃってね。プロジェクトが消滅したんだよ。仕事が何もなくなってしまってえらいこっちゃって時に本社のMさんから、すごい案件が届いたんだ」
「どうすごいんですか?」
「それはある日本の販売会社がセガがドリームキャストでリリースしたタイトルをマイクロソフトのXBOXに移植する話があって、そのタイトルの北米販売権を売り込んでいるという話しだったのよ」
「すごいですね。セガ、マイクロソフト。どっちも一流企業ですよ」
「そうだ。それですぐネットで検索したら、そこそこ評価の高いタイトルでね。うちみたいな零細企業に持ち込む話にしては良過ぎるタイトルだからこの話はホントなのか?って疑ったんだ。でもMさんはマジだって言うからサンプルを送って欲しいって頼んだんだ。しばらくするとドリキャス版のタイトルが届いて早速遊んでみた。するとこれが面白いゲームだったのよ。アドベンチャーゲームなんだけど冗談だらけのコミカルなタイトルでね。この案件はぜひ取りたいって思ったんだけど、よーく考えたら頭が痛くなったんだよ」
「なんで頭が痛くなるんですか?」
「どうしてうちみたいな零細にこの話が来たのかわかったからだよ」
「まだわからないです」
「北米販売権を売るけど英訳作業はそっちでやってくれという条件だったんだ。
移植作業では常に頭を悩ませるんだけど表示できる文字数に制限がある。日本語テキストは漢字を使う事で字数を制限できる。だが英語は全てスペルアウトしなければならない。
例えばだ、私の今日の昼食は焼肉定食でした。という日本語を英訳するとしよう。My lunch today was a grilled meat set meal. 日本語だと16文字だが英語だと43文字と倍以上になる。
意味を変えないで決められた字数で翻訳するのは大変な作業なんだ。
このゲームは物凄い量のセリフテキストがあって、しかもそれが日本人じゃないとわからないようなネタがそこらじゅうあったんだ。ジョークもいっぱいある。
普通に英訳するだけでも大変なのに、オリジナルのストーリーを変えないでコミカルなジョークも散りばめて英訳するという難易度トリプルAの作業になるのは間違いなかったんだ。
いいタイトルだけどすごく難しい移植作業になるからどこも手を付けなくてうちに話が回ってきたんだって思ったんだよ。
この案件を取るべきかどうか相当悩んでね。セールスと俺のアシスタントと連日相談を繰り返して結論を出した」
続く
このはなしはフィクションだぞ