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ゲーム屋人生へのレクイエム 94
業務用ゲームはゲーセンで作りこまれていく醍醐味を味わった頃のおはなし
「ロケテストの結果はどうだったんですか?」
「とびきりいいという事も無かったけどまずまずってところだった。それでMも販売するって決めて俺の勤めるG社で機械を生産することに決まったんだ」
「社長喜んだでしょう?」
「大喜びだったよ。代理店契約を結んですぐに生産受注だったからね。念願のゲームビジネスがついに叶ったって喜んでくれたよ。
受注してからは生産の準備に大忙しだったよ。
もともとの設計は木製のキャビネットだったからこれを板金に設計変更しなきゃならなかったのでエンジニアとも毎日やりとりしてたよ。
設計が終わったら組み立てに必要なすべてのパーツのリストを作って発注して生産ラインに並べる。
どの順番で機械を組み立てるか考えて生産ラインの設計も必要だった。
とにかく生産に必要な準備は全部ひとりでやらなきゃならなかったから大変だったよ」
「一緒に転職したKに手伝ってもらえばよかったんじゃないですか?」
「Kはセールスに配属されたから手伝ってもらえなかったんだ。
会社の中にはゲームの機械生産経験者はゼロだったから自分でやるしかない状況だったんだ。
忙しかったけど楽しかったよ。開発段階から見てた企画を自分の会社で生産するんだからね。
どんなプロジェクトでもリーダーを務めるのは楽しいもんだよ。自分の意見を聞いてもらってチームの結果に反映されるんだ。オーケストラの指揮者みたいな感じかな」
「チームって何人くらいだったんですか?」
「この時はエンジニアと部品生産、購買、組み立て全部合わせたら40人くらいだったかな。ゲーム機械の生産としては平均的な数だと思うよ。
それで、生産が始まって機械を出荷してこれで無事にプロジェクトも終わったと思ったところにMの副社長から電話があったんだ」
「お祝いの電話ですか?プロジェクトが終わったから」
「いやいや、そんないいはなしじゃなかった。生産を今すぐ止めて欲しいって言われたんだ」
「何があったんですか?」
「出荷した機械を全米のゲーセンに配置したけど売り上げがさっぱりダメだと言うんだ。それでこれ以上機械はいらないから生産を止めろって言ってきたんだよ」
「え?だってMが買うって言うから始まった生産ですよね?それがいらないってちょっと勝手ですよね」
「そう。それで俺はOからの契約に基づいて生産を受注しているのでOからの指示が無ければ生産を止めることは出来ないって言ったんだ。するとわかったOに連絡するって言って電話を切ったんだ。
俺はOに事実をありのまま報告したんだ。そしたらOの生産本部長からメールが届いたんだ」
「何て書いてあったんですか?」
「Mが突然生産を止めろと言ってきた本当の理由は何だと思うか俺の考えを聞いてきたんだよ」
続く
フィクションです