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ゲーム屋人生へのレクイエム 85話
仕事が無くなって無給で働くことになったころのおはなし
「無給で働きだして2か月目に入った頃に思いがけない人から連絡があってね。ゲーム業界に入るきっかけになった最初に勤めたゲーム会社があったでしょ。覚えてるかい?」
「O社ですね。アメリカで働くきっかけにもなりましたもんね」
「そう。そのO社の生産課で働いていた時の上司から連絡があったんだよ。O社を辞めるって相談したときの上司だ。
元上司、Kさんは当時主任だったんだけど部長にまで昇進してたんだ。それでアメリカで生産絡みの出張があるので俺に会いたいって事だった。2週間程して晩御飯に誘われて話をしたんだ」
「どんな話だったんですか?」
「それはO社が持つゲームの権利をアメリカにあるゲーム会社にライセンスしてリメイク生産をすることになったんだけど、俺に現地のコーディネートをして欲しいという話だったんだ」
「得意な仕事じゃないですか。いいタイミングですし」
「いいタイミングなんだけどそう簡単にはいかなくてね。
Kさんは俺のセカンドビジネスとしてやってくれないかって事だったんだ。つまり俺個人との契約にしたいってことだったんだよ。でも、俺は本業があるし、就労ビザの問題もあった。ビザ発給に明記された雇用主以外から給与をもらう事はできないという決まりがあって無理だったんだ」
「じゃあ断ったんですか?」
「そこで俺個人との契約ではなくて会社との契約にして欲しいって提案したんだ。会社ならば業務なので就労ビザの問題ない。俺の給料も出るだろうし。
だけどKさんはそれは難しいって言ったんだ。海外の会社との契約は常務以上の決裁が必要になるから今回のような単発のプロジェクトではたぶん却下されるだろうってね。
それで残念だけどオファーを断った。収入はのどから出が出るほど欲しかったよ。二か月間給料もらってなかったし。Kさんもそこを何とかならないかって何度も聞かれたけど無理ですってお断りした。それでKさんは落胆して帰国したんだ」
「残念でしたね」
「この話にはまだ続きがある。帰国したKさんからどうしてもやって欲しいとあらためて連絡があってね。生産本部長が俺に会いたいって言ってる。旅費は全部出すから会って話を聞いて欲しいって頼まれたんだよ」
「猛烈な押しですね」
「そう。なんでそこまでって思ってKさんに理由を聞いたんだ。そしたらO社には海外生産の経験者がいないし英語でのやりとりがうまくできなくて困っているっていうことだったんだよ。海外での生産経験者はO社では俺が最後だったから誰もわからなくなってたんだ」
「Oの子会社は閉鎖しちゃいましたもんね」
「そう、俺を頼るしかない状態だったんだ。俺はゲーム業界に居る。しかも競合しない家庭用ゲームの移植業。おまけに俺のいる場所はライセンス先の生産工場とは目と鼻の先だったんだ。
そこまで頼まれると何とかしたい。
いろいろと考えた挙句にいい知恵が浮かんでね。
それでKさんには帰国しますと連絡したんだ。
同時に本社のMさんにも事情を報告して帰国の準備をはじめたんだ」
続く
フィクションです