ゲーム屋人生へのレクイエム 114
突然役員会で吊し上げをくらったころのおはなし
「しかし、確かに専務から約束いただいています。そうですよね専務。どうかお答えください」
「私はそんなことを言った記憶はない。キミの思い違いだろう。それにしてもだ。キミは本社から金を借りているんだ。その立場を理解していない。返済する計画も無い、赤字の事業を説明する資料もない。いったい何様のつもりなんだ。2億も借金しておきながら責任というものが全くないじゃないか」
「ちょっと待ってください。設立した際に1億3千万については責任を問わないっておっしゃったじゃないですか。それに本社は子会社の事業に投資したのであって私個人に金を貸し付けたのではないはずです」
「キミの責任で返済の義務がある。同じことだ」
「では発言させていただきますが、子会社を設立した際は、製品の供給は本社がやる、事業計画は必要ない。そういう条件で始めた事業ですが、これら全て反故にされました。
それでもここまで事業を継続してきました。オンラインのビジネスも始めてこれから軌道に乗るという状況で、いったいどうして突然こんな形で私が責めを負わなければならないんですか?」
「キミは子会社の社長だ。本社の方針に従う義務がある。そして責任もある。キミは借金をしているという認識がないんじゃないのか。それにキミの発言は居直っているように聞こえるが、世間ではキミのような人間を泥棒というんだ」
「泥棒?その言葉は受け入れることは出来ません。非常に不愉快です。これ以上申し上げることはありません。退席させていただきます」
そういってテレビ会議システムの電源をオフにしたんだ」
「突然何が起こったんですか?」
「訳がわからなかったよ。何の前触れもなかったからな。
確かに会社は赤字だったけど、それもこれも本社が迷走した結果だよ。
本社で制作したゲームの開発費を子会社に支払わせて、売れるだけ売ればいい。そんな安易な考えでスタートした。けれど現実は違った。売れ残ったら返品か値引きに応じなければならない。
恐ろしい現実がわかった途端に本社は北米事業から手を引いた。それから先は俺が勝手にビジネスを継続している。本社は俺に金を貸している。そういう事にしたかったんだろう。そうすれば責任は全て俺にあるということになる。
俺には経営責任者としての責任はある。専務は全役員と執行役員が勢揃いしたあの万座の席で俺を泥棒と呼んだ。俺は何もやましいことはしていない。俺の矜持が絶対に許せなかったんだ」
続く
フィクションです