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ゲーム屋人生へのレクイエム 53話
前回までのあらすじ。家庭用ゲームの仕事がわかりはじめて面白くなってきたころのおはなし。
「社長に呼ばれてね。社長室に行ったのよ。そしたらプロダクトマネージャーが辞表出したって聞かされたのよ。びっくりしたよ。西海岸にある大手のゲーム会社に転職が決まったから辞めるって。困ったことになったって思ってね」
「どうして困るんですか」
「プロジェクトどうするのよ。マネージャーいないとプロジェクト頓挫しちゃうでしょ」
「マネージャーになればいいじゃないですか」
「ギクッ!な、なんで知ってるの」
「なればいいじゃないですか。マネージャーに」
「むう。話の展開を先読みされてしまったな。まさしくそのとおり。社長からプロダクトマネージャーをやるようにと命じられたのよ。プロダクトマネージャーになればプロジェクト全体の責任を負うことになる。けど自分のやり方でプロジェクトを進める事ができる。一瞬迷ったけど受けることにしたのよ。それで前任との2週間の引継ぎを終えてから本格的にプロジェクトをまとめることになったのよ」
「おお。ゲームプロジェクトのマネージャー。カッコいいですね」
「格好だけでは仕事はできんぞ。ライセンス交渉が成立したらプロジェクトのスケジュールを作って、予算の作成、ソニーや任天堂へ提出する企画申請書の作成からプロジェクトが始まるぞ。この企画申請が曲者でね。申請が承認されなければゲームを売ることができないルールなんだぞ」
「なんでそんなルールがあるんですか?」
「それは49話ではなしをしたアタリショックが原因なのよ。読んでない人のためにここにリンクを貼っておくぞ」
「下手なオチの回ですね」
「それは言わなくていい。クソゲーが飽和状態になって市場崩壊した事で任天堂、ソニー、セガ、これら当時のハードホルダー、ゲーム機を開発販売している会社が悪夢の再来を警戒してクソゲーが世に溢れないようにルールを作ったのよ。企画書で一次審査、アルファ版で二次審査と何度か審査を経て最終承認されてようやく売ってよいということになる。ハードホルダーによって審査基準は異なる。セガはそんなに厳しくなかった。任天堂は普通。ソニーは滅茶苦茶厳しかった。このころはセガは衰退気味で圧倒的にソニーが強かった。マーケットシェアも一番だったからなおさらゲームのクオリティにはうるさかったよ。プレイステーションのゲームを出せば売れる数は期待できるから誰もがこのハードで売りたがる。そしてソニーは飽和状態にならないようにゲームのクオリティを管理するようになるという理屈だ」
「面倒な審査ですね」
「うむ。自分たちがどんなにいいゲームだから売りたいと思っても企画承認されなければ売ることができないから商売の見通しが立てられない。ライセンス交渉が成立したのに売るのを諦めたタイトルもいくつもあった。クソゲーじゃないのに市場に合わないとかなんとかいろんな理由をつけて却下されたよ。そうかと思えば企画審査で落っこちるだろうなと思いながら申請したゲームが承認されることもあったな」
「市場を守るためのルールなんですね」
「まあ、それは必要なことだと思うけど、結局のところソニーだって任天堂だってセガだって自分たちもゲームを販売してるじゃない。競合なんだよね。競合相手に選別されるのってフェアじゃない気がしててさ。野球に例えるなら自分がバッターで相手がピッチャーと主審を同時にやってるようなものだよ」
「そりゃひどいですね。全部ストライクになりますね」
「相撲に例えるなら俺が関取で相手が関取と行司みたいな」
「ええ。そうですね」
「テニスで例えるなら俺がボールで相手がラケットとネットみたいな」
「何言ってるか全然わからないです」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。