#2 あの街
雨の音で目が覚めた。
カーテンの青がぼんやりしている。
雨の日の午後 明かりのついていない部屋。
独特な仄暗さが好き。
*****
不意に思い出したことがある。
何年も前のこと。
初めて訪れた遠くの街で買った、一冊の本のこと。
県道沿いにあったその書店。
平日の昼間で客足も疎らだった。
駐車場から見ていたより広い店内は、都内の駅に隣接された書店と違ってまろやかな時間が流れていた。
図書館にいる時の、なんとも言えない非日常感と少し似ているような気がする。
棚から棚へゆっくりと歩きながら、書店員やお客さんに目を向ける。
ついさっきまで私の知らなかったこの街の本屋さんで働いている人、
眼鏡を押し上げてタイトルを見比べるおじいさん、
制服姿の女学生、
子どもを連れた私と同じくらいのお母さん。
みんなこの街で、明日も続いてくれそうなささやかな日常を生きている。…ように見えた。
なんだか少し羨ましくなる。
足りないものばかり数えてしまう、あの時までの癖。
知らない場所へいくと、そこにいる人々の生活を想像してしまう。
玄関の扉を開いたら遠くに美しい山稜が見える生活。
どこまでも行けそうな、国道の続く広い場所。
大きなスーパーと、綺麗なコインランドリー。
こじんまりとしてお洒落なカフェや、街のケーキ屋さん。
そこにいる人々の毎日は、どんなだろうか。
そんなことを思いながら文庫本を何冊か買った。
家主が不在の昼間、
日当たりの良いあの街のあの部屋で読んだ小説は
どこに行ってしまったのかな。
「おもしろかった?」と聞かれてうん、と答えたら
次に会った時その人の部屋に同じ本が置いてあった。
どこにでも売っている本だけどふと思い出したんだ。
あの街の、あの本屋さんで、
あの日の自分が選んだあの本のこと。
#25時ごろ待ち合わせ #日記 #本屋 #書店 #本 #生活