大学の授業で”ちょうどいい”犯罪。
30歳くらいの時に私は放送大学に入学していた。編入学で2年間在籍してたが、在学中は実に様々な科目の単位を取った。
解剖学や栄養学、保育や農業、心理学に統計学など卒業に必要な科目を選択した。私は専門学校卒業で知識の偏りがあったため、大学ではできるだけ広く勉強したかったのだ。
その中で【犯罪心理学】というものがあり、興味深かったので受講した。放送大学はその名の通り自宅でテレビやネットを介して放送授業を閲覧できる。
私はほぼすべての科目を、教科書を読んだり放送授業を見て単位を取ったが、珍しく犯罪心理学だけ対面授業も受けた。
大学の中の教室に入ると10人ばかりの人がいる。放送大学の特徴なのだが、科目によっては中年以降の人が多い。もう退職した人がチャレンジしたり、単純に教養として大学に入学する人たちも多い。
そのクラスも50~70歳くらいの人たちが多かった。男女比は同じくらい。そしてその授業を担当する教授もそこにいる中高年の生徒が同じ年齢くらいだった。とても和やかなムードで授業が始まる。
授業が始まって15分くらい経過したくらいだっただろうか。教授が突然こんな質問をしてきた。
「この中で犯罪をしたことある人はいますか?」
場が静まり返った。当たり前だ。その場には中高年がほとんど。ガラの悪いやんちゃな学生などいない。しかも高齢にもかかわらず向学心があって、大学の授業を受けに来るような人たち。おそらく皆、堅実に生きてきた人たちだ。
私と同じ年くらいの女性もいるが、控えめなで大人しそうな女性だ。仮にもしこんな女性が犯罪に手を染めているのだとしたら、それはきっとヤバい犯罪なのでは…?みたいな感じの。
「ここは自分がいくしかない!」と咄嗟に思った。それと同時に、
「どの犯罪がこの場に”ちょうどいい”のだろう?」
と思った。
私が生きてきた時代や地域のせいにするわけではないが、それなりに軽犯罪をしてきた自負がある。その私の半生の中で大学の授業に用いられるような手ごろな犯罪はあっただろか…。
あ。あった。
私は手を挙げた。すると教授が私を指名し、話すよう促した。
以上のような内容を私は大学のクラスで話した。
すると教授が、
「皆さん、拍手!(パチパチ…)」
「このような状況で自分の犯罪の話をするのはとても勇気がいることです」
といって褒めてくれた。その後は私の話を元に、教授と生徒で【犯罪心理学】を軸としたディベートが進んでいった。
私としては勇気を出したわけではなく、”ちょうどいい”塩梅の犯罪を思い出しただけなので、褒められて少し気まずい思いがした。
帰りに他の中高年の生徒の方から、「ありがとう!貴重な話が聞けたし、とても良い授業内容だったよ!」とお声がけいただいた。
さらに気まずい思いがしたが、まぁ良い授業になったのであれば良かった。ちょうどいいも何も、犯罪は犯罪なのでやってはダメなことなのだが、ふとこの話を思い出したので備忘録として書いてみた。