強権発動
このところ、ものすごく忙しい。
といっても仕事ではない。いつも通り、月〜木9:00−16:00で働き、その間は暇なんだけど、問題は帰宅後だ。
先週も慌ただしかったが、今週も負けていない。月曜は歯医者に忘れ物を取りに行ってから次女の習い事送迎、火曜日は次女の歯医者、水曜日は長女の歯医者、木曜日は翻訳のオンライン授業。金曜日は翻訳の課題+日用品買い出し+掃除洗濯料理+子供達の送迎。
息つく暇もない。
さすがに土曜日は9時ごろまで寝た。そしたらいつもは午前中に行く買い物が午後にずれ込み、さらに前日の習い事で長女が忘れ物をしてきたことが発覚したので別の習い事への送りついでに現場まで確認しに行き、ようやく買い物をして帰宅したらすでに午後も遅くなり、さあ夕食を作るかと腕まくりをしたところで次女の習い事も私が送るハメになり(おかあさんがいい〜)、帰宅後はもうとっぷり日が暮れて大急ぎで夕飯を作り、腹をすかせて帰ってきた子供達(+夫)に大急ぎで食べさせ、次女と一緒に風呂に入り、自主トレにつきあい、寝かしつけ…。
土曜日なので夫もいるのだが、自分の勉強の課題が思うように進まないとかでイライラしながらPCの前に座っているばかりでこまごまと動き回っているのは私だけだ。最低限、子供達のお迎えと夕食後の洗い物くらいはやったがそんなものだ。ものすごく疲れた顔をしているが同情してやるような理由はどこにもない。勉強だって自分の意思で始めたんだから、愚痴られたって聞く気にもならない。
しかも平日は仕事しかしていないのだから生活はシンプルそのもの。勤務時間が長いと平日は仕事以外の仕事が何もなく本当に羨ましい。母の時間は当然のように細切れにされ子供達に吸い取られていく。このつらさと虚しさは長時間勤務夫には絶対に理解できない。うらめしい。
そんなこんなで、日曜日も朝からわりと疲れていた。せっかく天気がいいのでお昼は自転車で少し離れたラーメン屋まで行ったりしたせいもあり、夕方はまたバタバタしていた。明日明後日のおかずも作り置きしつつ今日のおかずも作り、次女のピアノ練習につきあい、洗濯物を取り込み、また夕飯作りに戻り…と、コマネズミのように働いていた。その間、夫は自室にこもりっぱなし(おそらくスマホで動画を見ている)、子供たちはTVやタブレットに夢中。
さすがに限界を感じてきたので、「お手伝い名人」を自称する子供達に洗濯物のたたみ作業を頼んでみたが拒否されたところで私は静かにキレた。
「そんなに手伝いたくないなら勝手にしたら?」と低い声で言い残し、夕飯を作り終えると自分の洗濯物だけかかえて自室に直行し、翻訳課題の見直し作業にとりかかった。夕飯の時間だというのにPCから離れない私の姿にようやく異変を感じ取った夫が「夕飯は?」と呑気なことを聞いてくる。
「知らない。子供達も何もしないし私も何もしないことにした。おかずはできてるけど勝手に食べてもらえれば」
「あ、そうなの」とか相変わらず呑気なことを言ってダイニングへと上がっていく夫。
しばらくすると子供達が「ねえねえ、ちょっとこれ見て〜」と能天気に何かを見せにやってきた。何やら嬉しそうなので見てやりたいところだが、ここはぐっとこらえて「見ない。あなたたちがお母さんの言うこと聞いてくれないからお母さんはあなたたちの言うことは聞かない」と告げると、さすがに子供達もこれはまずいと悟ったようで、そそくさとリビングに上がっていく足音が聞こえた。
しばらく課題に集中していると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
長女がおそるおそる「食後のお茶、いる?」と聞いてきた。「さっきごはん食べて、いま次女が洗濯物たたんでる。私は洗い物をするから」とのこと。
「ありがとう、もらうね」と言うと、ほっとしたように階段を上がっていった。
入れ替わるように次女が洗濯物を運んでやってきた。タンスにしまって部屋を出る直前、私のそばまでやってきて「さっきはごめんね、ゆるしてね」と耳元でささやいてくる。そんなの許すに決まってる。
課題がひと段落したので、そろそろ自分も食事をしようとダイニングへ。するとごはんとおかずが綺麗に並べられており、温かいお茶も添えられている。しかもテーブルの上がものすごく綺麗になっている。感動。
長女は宣言通り洗い物をしており、次女はたたんだ洗濯物を自室に運び終えると、私のそばについて離れなくなった。「それは長女が運んだんだよ」「お茶も長女がいれたんだよ」「私は洗濯物をやったの」など、沈黙を恐れるかのようにひたすら話しかけてくる。
「どうしたの、めっちゃ話しかけてくるじゃん」と言うと「だっておかあさんがゆるしてくれてるかわからないから」と素直に打ち明けてくるので、私ももう全面的に降参するはめになった。
「そんなのもう許してるよ!いっぱい手伝ってくれてありがとうね、さすが名人!」と言うと、嬉しそうに笑ってさらに離れなくなった。
洗い物を終えた長女にも「ありがとう、さすが名人だね。お茶も美味しかったよ」と労いの言葉をかけると、満足したような安心したような笑顔で大好きなお絵描きを再開していた。
疲労の蓄積からくるストレスによりブチギレた結果、いつもより綺麗なリビングでマイペースで食事をし、片付けまで子供がやってくれるというVIPディナーを勝ち取ることに成功した。いつものバタバタから一転、余裕がありすぎてありがたい反面なんとなく手持ち無沙汰で申し訳ない気持ちになってしまうところが主婦のよくないところだ。
子供達の気持ちも嬉しいけど、自分が強権発動することによって脅しをかけて恐怖によってコントロールする鬼母なのではないかという気もしてきて、不安と後悔に苛まれたりもする。子供にとって母親に嫌われることへの恐怖は計り知れないものがある。禁じ手を使ってしまった罪悪感は残る。
ちなみにこの間、夫は床に寝転がってひたすら動画を見ていた。いや、私が引きこもっている時に子供達に夕飯を食べさせる役割は果たしていたんだとは思うが、だとしてもそれだけのことだし、そもそも子供達の様子から察するにだいぶ自主的に動いていた説もかなり有力だ。
同じ親のはずなのになぜこんなにも負担が違うのか?というか、もはや存在感がなさすぎて父親がいることを忘れがちになっている。愛がないとか冷たいとか言われても困る。そのままそっくりお返しする。
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