図1

「華為製品の不使用を要求」から

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三点に注目したい 
 1.エコシステムというバッファー
 2.中国企業の直面する呪縛
 3.通信インフラ

関連代表記事 Bloomberg 2018年11月23日 13:50 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-11-23/PIMM2G6S972801
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A 米中貿易問題の本質は次世代安全保障の覇権争いにあると考える。この見方をした場合、デジタルテクノロジー革新で安全保障のあり方が大きく変わっているこの時代において、米中貿易戦争というのは、中国に覇権を握らせないための一手段として位置づけられる。次世代の安全保障覇権を考えた場合、重要因子の1つはハイテク覇権である。であれば、ハイテク企業が中国から飛翔しグローバルに支配度を増すのは、安全保障上の重大リスクといえる。


B 米中間で直接的に関税攻撃をしあう分には、世界的に迷惑がかかろうが、二国間のやり取りとして解釈できる。これは、華為技術のスマホやZTEのドローンといった私的企業に対する攻撃でも同じである。政府として私企業を攻撃するのはどうかとも思うが、中国とアメリカという二国間で安全保障を考えた場合に、そこに大きなリスクがあるという理由で、アメリカ国内での所定企業の製品使用に制限をかけるのは、理に適ってはいる。


A 問題なのは、グローバルという視座を加えた場合である。例えば、アメリカから日本やドイツ、或いはインドに対して、「中国品に輸入関税を設けるように」とか、「中国企業Xの製品を購入しないように」と指示を出すのは、お門違いである。仮にこのような指令をだしたとしても、通常であれば、どの国も言うことは聞かない。


B 華為技術はスマホのシェアでサムスンに次ぎグローバル2位、通信インフラ(基地局)部門では2017年にグローバルシェア27.9%でエリクソンを抜いたと報告されている*1。同年の連結売上高は6036億2100万元(約10兆4300億円/前年比116%)であり、純利益として474億5500万元(約8200億円)を生み出している*2。売上を地域別にみると、中国が約50%、EMEA(欧州、中東、アフリカ)が27%、アジア太平洋が12.3%、南北アメリカが6.5%である。また事業別にみると、通信事業者向けネットワーク事業が49.3%、コンシューマー向け端末事業が39.3%、法人向けICTソリューション事業が9.1%である*3。アメリカ依存形態はとっていない。


A アメリカからみて華為技術のようなハイテク企業がグローバルなリーダーシップを発揮するのは、安全保障的にNGである。特に、5Gが急激に開花するこのフェーズで、通信インフラ事業としてグローバルに支配度をもつ企業は脅威である。ここで面白いのは、中国という「ブランド」である。中国からのサイバーテロや盗聴といった情報はその真偽はわからぬも、無数に存在している。また、これらの情報と一般的な中国のイメージとの乖離は小さい、と感じる人々が多数ではないだろうか。つまり、華為のようなグローバルな通信インフラ事業社が、「中国の意思」を組んだ場合、それはグローバルレベルでの安全保障問題に発展すると「言える」。そして、米軍基地や駐屯地のある国においては、安全保障程度が脆弱化すると「主張できる」ことになる。この場合、二国間を通り越し、アメリカからドイツや日本などに向けて「華為製品を控えるように」と指示を出したとしても、一本の筋は通っており、無下に否定することもできなくなる。


B 冷静に考えれば、アメリカだってあらゆるデータを「盗み見」しているわけであるが、自国が行う安全保障という立場での主張であれば、それは何ら問題にはならない。華為の実績はすさまじい。純粋に現国防としての危機感もあるのだろうが、将来の安全保障覇権獲りという視点で華為を潰したくなるのも、気持ちとしては理解ができる。

(2017年度の華為の活躍*3)
・世界に50万以上のNB-IoT基地局を展開。
・商用ネットワークで1,000万以上の接続を実現。
・1,000社以上のパートナーとともにNB-IoTエコシステムを構築。
・NFVで350以上、SDNで380以上の商用契約を締結。
・30以上の商用ネットワーク上で無線インターフェースにCloudAIRを展開。
・世界30社超の通信業者と10以上の都市で5Gプレ商用化トライアルを実施。


A 華為はアメリカ依存しておらず、エコシステムの深耕をしっかりと行っており、よい経営をしている。広く深いエコシステムは外乱を吸収するバッファーとしての機能を果たし、安定な企業経営に大きく貢献する。今回のような国家的攻撃であったり、競合企業の攻撃なども、緩和しやすい性質を持つ。華為としては、ESG的な社会との深いコミュニケーションだけでなく、ENABLER(イネーブラー)としての役割に徹し、オープン協業に尽力する姿勢を採っている。また360以上の標準化団体、業界アライアンス、オープンソースコミュニティに参加し、IIC、IEEE-SA、BBF、ETSI、TMF、WFAなど300を超える要職に就任している*3。このような活動を通じ時間をかけて構築したエコシステムは、高い結合エネルギーで互いに結びつきながらも、総体としてはフレキシブルに変形しうる。


B 華為としては中国企業である以上、今回のような攻撃や「中国だから」という呪縛からは逃れられない。これを本質的に変えるには、中国という国家がグローバルに変貌しリブランディングを達成するか、脱中国企業の道を歩むことになる。一方、経営として、多くのそして鋭い外乱を吸収し「気にしない」という姿勢をとれる状態を作り上げることも重要であり、そのためには、総体としてはフレキシブルに変形できる高い結合エネルギーでネットワーク化したエコシステムの形成に、いま以上に誠心誠意邁進する必要がある。そして、これらのエコシステムの弱点は「裏切り」であることを常に肝に銘じる必要がある。公明正大な態度で、エコシステム全体の健全性をリーダーシップを発揮し、つくっていく気概が重要である。


*1 日本経済新聞 主要商品・サービスシェア調査
  https://www.nikkei.com/article/DGKKZO19152230S7A720C1EA5000/

*2 HUAWEI https://www.huawei.com/jp/
*3 HUAWEI ANNUAL REPORT https://www.huawei.com/jp/

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