赤線地帯
僕にとってこの映画は、視点は一つではないということを教えてくれた作品だ。
僕が生まれた1975年には売春防止法はとっくに施行されていて、売春は当たり前に犯罪だった(売春防止法は1957年に施行され、赤線は1958年に廃止された)。あまりに当たり前すぎて、売春について議論するなんて発想はなかったし、そもそも売春について考えたこともない。盲目的に売春はいけないことと信じていた。
大体、赤線なんてものは戦中か戦前のものだと思っていて、歴史上の出来事──卑弥呼や信長と同じ並び──程度にしか捉えていなかった。そのくらい不勉強だった。
だから最初にこの映画を観たときはショックだった。売春を肯定するような台詞が普通に飛び交っていたからだ。
そして映画を通して、娼婦や売春宿の経営者には彼らなりの正義があることを知った。
売春防止法を施行することで、明日から生きていけなくなる人が生まれる。一体、正義とは何なのかということを考えさせられた。
それでも売春を禁止したことは(抜け道があるにしても)正しかったと思うし、そうしていなければ今ごろ日本はこんなに豊かな国にはなってなかっただろう。
だから思想的に影響を受けたというわけではない。しかし相手側から見ることを学べたのは大きい。
製作年 1956年
製作国 日本
配給:大映
上映時間 85分
スタッフ
監督 溝口健二
脚本 成澤昌茂
撮影 宮川一夫
キャスト
若尾文子 やすみ
三益愛子 ゆめ子
町田博子 より江
京マチ子 ミッキー
木暮実千代 ハナエ
川上康子 しづ子
進藤英太郎 田谷倉造
沢村貞子 田谷辰子
浦辺粂子 おたね
春本富士夫 青木
入江洋佑 門脇修一
高堂国典 門脇敬作
三好栄子 門脇さく
十朱久雄 塩見
丸山修 佐藤安吉
菅原謙次 栄公
加東大介 宮崎行雄
見明凡太朗 野々村
小川虎之助 より江とミッキーの客
多々良純 ゆめ子の客
宮島健一 ハナ江の客
青木富士夫 ミッキーの馴染客